& 過ぎ去った。あるいは去った過ちと書きます
十歳の頃。
父親がチーターを撃ち殺した。父とその友人が朝方水くみに歩いたところ、たまたま茂みに潜んでいたらしく襲いかかってきた。縄張りをかえたが故の不慮の衝突であった。
友人があわや喉笛を引き裂かれかけたところ、普段の心掛けというか習性で銃を持ち歩いていた父が撃ち抜いたのだ。
そんな父を自分は誇りにさえ感じた。
翌日、父は逮捕された。
保護動物だったからだ。
ワシントン条約だとかいう西洋人が勝手に決めて、各国の代表が調印した条約。
仲間の命を守ったはずの父は犯罪者にされた。
正当防衛はつかなかった。友人は喉笛に食いつかれる前に、父によってことなきを得ていたからだ。注意を怠ったとして過失が認められた。
助けられた友人は面倒事を恐れて証言台で、検事に都合のいいように話を合わせた。
執行猶予はついたが、元来の短気な性格が災いして彼はいけ好かない検事を殴ってしまった。そのまま刑務所にいれられ、獄中で死んだ。
驚くほどあっさりだった。
死因は家族にも非公表。今も《早撃ち》はその詳細を知らない。
十歳の頃。
父親がチーターを撃ち殺した。父とその友人が朝方水くみに歩いたところ、たまたま茂みに潜んでいたらしく襲いかかってきた。縄張りをかえたが故の不慮の衝突であった。
友人があわや喉笛を引き裂かれかけたところ、普段の心掛けというか習性で銃を持ち歩いていた父が撃ち抜いたのだ。
そんな父を彼は誇りに思った。
翌日、父は逮捕された。
保護動物だったからだ。
ワシントン条約だとかいう西洋人が勝手に決めて、各国の代表が調印した条約。
仲間の命を守ったはずの父は犯罪者にされた。
正当防衛はつかなかった。友人は喉笛に食いつかれる前に、父によってことなきを得ていたからだ。それでも不用意に近づき、注意を怠ったとして過失が認められた。
助けられた友人は面倒事を恐れて証言台で、検事に都合のいいように話を合わせた。
執行猶予はついたが、元来の短気な性格が災いして彼はいけ好かない検事を殴ってしまった。そのまま刑務所にいれられ、獄中で死んだ。
驚くほどあっさりだった。
死因は家族にも非公表。今も《早撃ち》はその詳細を知らない。
《早撃ち》はその日からハンターを辞めて動物保護団に加入することを決めた。ほどなくそれは実現することになる。
その後、母は内心でそれを嫌い、ことあるごとに自分を諭した。父を殺した遠因であるそれに迎合したと捉えられたらしい。
やがて母は、自分が家で母の面倒をみず虐げていると村の連中に吹聴しだした。そんな事実はなかった。安いけれども給料は父親以上にかせぎ、それを全て母に渡してもいた。
《早撃ち》は自然と村八分の状態へと孤立させられていた。
無論、父への思慕と敬愛もあり、それを奪った法の事務的な処理を憎く思っていた。
誇りさえも踏みにじられた気さえしていた。
それでも、感情に頼らず自らの正当性を考えた場合、産まれ育った国よりも白人達がつくった国際法とやらに部があることを理解せざるを得なかったのだ、
世界の目から見れば、父と自分が立ち向かっていた誇り高き獣たちは、人間にとっては弱い者いじめとされるほど矮小な存在となっていたという、知りたくもなかった現実にも気づかされた。
そして、自らは猛獣の驚異から離れているクセに、動物愛護と声高に叫ぶ連中が出す金、それが世の中を支配していることも。
それが何よりも許せなかった。
(オマエらは金だけだしてろッ。オレの国に生きる人間と生き物はオレの手で守る)
誇りを捨てて保護団に加入したのではない。
誇りを守るために入ったのだ。
《死の商人》と出会ったのは、その頃だ。