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Q 過去ってなんですか?

 電車で《早撃ち》は《死の商人》に八回逃げると嘯いたが、撤退の意志は毛ほどもなかった。

 あいつが信じるならおれは殉じる。そんなシンプルな思考だけが《死の商人》との絆だ。

 接近する標的を待ち構え、獲物へと目を光らせながら《早撃ち》は幼少の頃を思い出す。

 父親はアフリカの貧乏な国のハンターだった。

 この国と比べれば貧しく何もない村だったが、あの頃の時間はゆっくりと何よりも幸せに流れていた。

 文明の水に浸かった今でもそう思える。

 何にも支配されず、天候と季候の気紛れと驚異に、感謝と畏怖の習慣があるだけで、唯一の驚異である猛獣が出れば、村の人々のために退治する。

 この国ではいまだアフリカを未開の地としているが、自分の国ではある程度文明の恩恵は受けてはいた。当然ながらそのしわ寄せも。

 

 子供の頃、父より与えられた唯一の玩具の銃を分解し、組み立て直した。

 五才の頃、壊れたラジオを分解し、修理することもできた。

 内部構造を知り、それを理解することに興味を覚えはじめたころ。一番の興味は父が持つ猟銃へと向けられた。その憧憬のような情熱は父の安全管理によって常に阻まれていたが、それでも虎視眈々とチャンスを待ち続けていた。

 そしてそれはついに訪れた。

 父と母が村の会議で一晩家をあけることになったのだ。

 次の日の明け方、父母が帰宅の途上、家の方角から銃声を耳にした。

 駆け帰った父母が見たのは空に銃身を向ける自分の子供の姿だった。

 父は激昂し、自分は叱りつけられた。

 彼らは理由を尋ね、自分は試し打ちしたのだと説明した。

 が、実際は違った。分解し組み立て直したのだ、猟銃を。

 はじめは意気揚々として分解した。さして時間はかからなかったが全てばらした後が困りものだ。記憶を頼りに組み立てるのには倍の時間を必要とした。

 それでもなんとか元の状態に戻し一目ではバレない状態にしたが、次に別の危険性を視野に入れた。 暴発の畏れである。

 完璧に戻した自信はあった。それでも、もし仮に父が手入れのさいに暴発したとすればそは一大事。 それを避けるためにはどうしても一度撃っておかなければならなかったのだ。

 それが運悪く父母の帰宅と合致した。

 その罰として《早撃ち》は一日中きにくくりつけられることとなった。

 今にして想うと父は自分のこす狡さに気づいていたのだろう。自分が撃ったあと整備を怠るようないい加減な男ではなかった。

 それでも彼は自分が分解し組み立て直したことを問いただしはしなかった。

 その夜の間《早撃ち》の頭を支配したのは、反省ではなかった。下手をすれば自分が命を失われるかも知れない危険性、それを抱き合わせて引き金をひいた事実、それは後々、自分の性癖に大きく影響をもたらしたのだと思う。


 十に満たない頃から、父と狩りに出かけた。

 獲物にもチャンスを与える悪癖はそのころ身に付いた。直すつもりはない、悪癖が自分を育てているのだから。

 必ず目が合ってから撃つ、それも誰よりも素早く正確に。

 一方的な狙撃スナイプは自分の美学に反するものだったからだ。

 知らない奴に意味なく殺される獣の気持ちがわからない、そんな想像力のない連中はそれをあざ笑った。

 外したらどうする、意味ないぞ。

 合理においてそれは正しい。

 だが、姿も見えない奴に、よくわからない道具でよくわからない理由で殺される生き物の気持ちを考えない連中が引く弾き金は軽い。

 それを生理的に嫌う習性はやがて己のスタイルである早撃ちへと繋がってくる。

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