& 運命と似ているからかもしれません
しかし、回り込まれてしまった。
ホームで口元を指で抑えられ、助けを呼ぶこともできず、再び電車の中に連れ込まれる。
発車のベルが鳴り、ドアが閉まり走り出す。
終着駅を超えた列車がどこへと向かっているのか。
ガタン、ゴトンと一定のリズムで廻る車輪は、既にコナイの逃げ場と行く末を塞いでいた。
「少し、お話をさせて貰えるかな」
思いっきり指を噛んでいたが、あまり効果はなかったらしい。痛みなど毛ほども感じないとばかりになだめかかる。
ぺっと吐き出し、唇にたれかかったヨダレを拭いた。
「ナンパにしては少し強引じゃないですかね」
ヒステリーを起こしてわめこうかと思ったが却下した。どうせ無駄だろう。とはいえ白旗をあげたと思われるのは癪なので、冷静さだけはとりつくろう。
どうしようか。
この状況。かなりピンチかもしれない。
相手の目的がまったくわからないから、どうしようもない。
アナウンスが流れる。
え~次の駅は〝科学棟第二実験室〟通称〝生物棟〟でございます。繰り返します~
「これは校内へと続いている。そして紛れもなく、貴方様が行かれる本来の道なのですよ」
列車の駅員にすらこの男の手が回っている。
「私は、さっきの所でよかったんですけどね」
《死の商人》はかぶりを振ると、
「オレはネットワークの糸を張ってずっと待ち構えていた。《ハッカー》と《二律背反》が引っかかったのはわかった。奴等にはそれ相応の資質があったからな」
バレていた。あの時の不正侵入の件。自分を調べる者への警戒を怠らない。それがこいつの用心深さなのか。
「だが、なぜ君があの場に居合わせたのか。理解できなかった。不理解。そう、不理解に対する関心こそ、人間がもつ興味関心といえる。だからそれを持って調べさせてもらったよ。君のことをね。そして、あることに気づいた。もしかして、君は、貴方は、かつて奴に殺されたある方ととてもよく似ているのではないかとね」
「なにを言ってるんです」
かなりヤバい感じだ。
話が伝わらないうえに、思い込みが激しそうなタイプだ。
なるべく刺激しないように心がけるが、いきなり襲いかかってくる危険性もある。
「しかし、矛盾もしている。だから、他の奴等は懐疑主義に陥る。彼らは優秀だが人道主義的過ぎていけない。かつて我らを使役した方と同一の存在であるその証拠。それを実存して見せてくれたらそれで済む簡単なことだというのに」
電車が止まる。
まるで本来の目的地へと自分を送り届けたかのように。
「貴方に関して、オレ以外のメンバーは懐疑的だ。だから、これから戦って殺してもらいたいんだ。《モンスター》を」
その響きは冗談ではなく、本当にそれそのものを示しているかのようだ。その口調はマルかバツかを決めるのに、後先考えずにマルをつける子供のようだ。
「違ってたら死ぬだけだ、これまでの奴等と同じようにな」
その暗い顔を浮べさせるのは、狂気に近い情熱に他ならないと思った。