友達
非現実感を抱えたままに手続きは完了。
今田コナイはそんな調子のまま、気づけば入学式を終えていたのであった。
そして思っていたよりも普通で日常的な高校生活が始まった。
世間では奇人偏屈の倉庫とも呼ばれ、日本の変人火薬庫どころでない凡人を持たず、作らず、持ち込ませずの逆天才非核三原則所とも評された、イチゲー高校。
ああ、なんとやんぬるかな、平凡非才の少女がそこに通うこととなったのだ。それでも一週間、何事もなく平穏無事に過ごすことができたは快挙としかいいようがない。
などと大仰にいうには気が引ける。
というのも事前に聞いた風評や悪辣な噂、恐ろしい怪談は今のところは確認できず、そういった話は事実無根の平方根であり、世間の認識で言うなれば割り切り難いというだけだったのだろう。
周りの生徒も特に変なところなど何も無い。目に見えるところでは普通の同世代であったというだけなのだから。
放課後、後ろの席に座っている少女に声をかける。
「ねぇ、部活はもう決めた?」
かけられた少女、小説は無言のまま首を横に振った。
小柄で細い手足、長い黒髪に線の細い顔立ち、典型的な和風美人。極端におとなしく口数が少ないのが珠に傷な同窓生。
彼女とは入学式に知り合った仲である。
コナイはここに入学して、途端にひとりぼっちとなっていた。誘ってきた友人は落ちており、両親はここの学費が全額免除であると知ると、途端に不景気の話題をしだした。あげくにはこれまで自分を養うのに費やした労力について、出産の時点から語りはじめてくれたのだ。
コナイに選択肢はなかった。
そんな顛末により全寮制のこの学校に、一人孤独に放り込まれるハメとなってしまったのだ。
わずかな救いは入学の日、後ろの席にいた小説と仲良くなれたことである。
彼女と部活動勧誘の冊子を見ながら、色々歩きまわり訪ね回った。
三年間通うのだから、結構真剣だった。
コナイは無口でおとなしい小説を引っ張ったが、彼女はどこも入りたいとは言わない。途上気を遣い、いくつか質問し、彼女の気持ちを確認した。
そんな移動の途上、鼻腔をくすぐるものがあった。
「なんか変な匂いするね」
「コーヒー……」
そこは横切ろうとした科学棟と呼ばれる施設。
その一階の窓から水蒸気のようなものが匂いとともに立ちこめていた。