& 逃げられないものとされてます
雨あがりの澄み切った空気が好きだった。
それはどこか心を潤してくれるから。
そろそろ校内へと戻らないといけない。全寮制の校内には門限もあり、守らなければ罰則もある。
二人で駅まで歩いく。湿ったアスファルトと土の匂いが混じって鼻腔をつく。
駅についたなら、校内までは直通で行ける。
校内と校外を繋ぐ駅はイチゲー使い専用かと思うほど、他に利用者がいない。
改札口で彼はその足を止めた。
「先輩は乗らないんですか?」
「少し、まだオレに用がある奴がいるみたいなんでな」
さっき言っていた尾行して来ているとかいう人のことを思い出す。どうせ先輩の中二病が産み出した架空の設定かなんかだろう。さすがにそこまでは付き合いきれない。
「じゃあ、ここでお別れですね」
「ああ、色々ありがとう」
駅構内を西日が射して、床を赤く染め上げている。
なんだか長い一日だった。思い返せば自分の弱さや情けなさを露呈してしまった気もする。
「少し、私もアナタのことを知ることができました」
そうだ。彼も完璧ではないことを知った。彼は知らないのだ。普通な日常なんて何も。
もしかしたら、自分たちは正反対なイチゲー使いなのかもしれない。全く別の可能性を持った。本来出会うはずのない者同士。
「これからも思うように生きればいい自分が選びとる〝半分の世界〟を」
その単語。それには聞き覚えがある。あの《ハッカー》に見せられた文章に出てきた単語。
彼はあれに関わっていたのか、あるいは当事者なのか。どちらにせよ驚きはなかった。むしろどこかやはりと納得もしている。でも、今はそのことに言及するつもりは毛頭なかった。
私がここにいる理由。それはあの日、面接室で偶然選ばれたからだ。たまたま数字が妙な組み合わせで、平均値がどうとかいう話になって、それでなぜか合格が決まって。
それでもここに来た。誰かに両親に言われたからか。違う。
自分で決めたからだ。自分で選んでいたからだ。
今まで選んで来た選択。それによって生まれた可能性と、失われた可能性。それに一喜一憂しながらもいつか誇れる日はきっと訪れる
改札口を通り、コナイは振り返った。それは丁度、改札を挟んで見送りの彼と向かい合う形で。
西日がコナイの目に映り込む。
いつもより朱朱とした夕焼けの空をカラスが飛んでいく。
いつも見る光景だが、彼らはどこへと帰っていくのだろう。
そんなことを考えながら。
コナイは自分とは正反対で対極な彼に言い放った。
「そう。たぶん。私は最初にあったときからあなたのことがキライなんだと思う」