明石教諭の災難4
待ち合わせ場所は〝校外〟の適度にオシャレで派手すぎないカフェ。
仮に現場を誰かに見られても、進路相談の苦しい言い訳が成り立つ。セッティングした先輩のナイスチョイスである。
その店の向かいもカフェであり、そこの窓際で先輩と二人、サングラスをかけながらこっそりと覗う。待ち合わせの予定の三十分前からの待ち伏せてである。
あまりイイ趣味ではないが、これも小説と彼女の書くラノベのため。もし彼女がショックで断筆なんてことになればその被害は読者にも及ぶ。二重の被害拡散を防止するため、強いては小説のためにも、この作戦に失敗は許されない。それを改めて決意する。
予定時間より大分前に小説はやってきた。その格好はとても小綺麗で、学生らしく、普段オシャレとあまり無縁であろう彼女の精一杯の努力が垣間見えるものであった。
「いじらしさに胸キュンですね」
「それがあいつに伝わればいいんだけどな」
小説は窓から店内を眺め、教諭の姿がないとわかったようだ。ガラスを鏡がわりに髪型を手直しすると、店前でちょこんと佇んだ。
「店に入りませんね」
「アキラの奴を待ってるんだろう」
「もう、女の子を待たせるなんて」
「そう言うな。アイツはあれで結構多忙な奴なんだ……おっ早速、噂をすればだ」
その視線の先には、人混みの中を早足で分け入るように進む明石教諭の姿があった。
混雑の雑踏の中でも一瞬で見つけることができたのには理由がある。
本音を言えばコナイは教諭がどんな格好でくるのか期待していた。
明石教諭はちょっとボケたところはあるが長身で細身、線が細くいかにも頭の良さそうな顔立ちをしている。立派な格好をすればさぞやカッコイイだろう、そう考えていたのだ。
今日はそれが見えるかも、そういった期待を抱いたのは《普通》の女子として無理のないこと。だが、その想いは無残にも打ち砕かれた。
人混みのなかを一際異彩を放つのはゆらめく「白衣」。そう。彼はいつもの研究室での姿と同じなのだ。私服のかけらもない。
彼にとってこれが正装とばかりに堂々と闊歩している。
「うわぁ、町中で見るとすっごい違和感じるー」
白衣の男は道路の先で信号待ちの足止めをくっていた。
この調子だと待ち合わせ場所につくまで数分かかるだろう。
その間、補足した目標を消失してはならない。待ち合わせ場所にいる小説にピントを戻すと、彼女はいつの間にやら数人の男達に取り囲まれていたではないか。
「いけない、なんかチンピラ風の男達にからまれてますよ、ナンパですよナンパ」
コナイはされたことないが、やはりさすがは美少女、街を歩けば男にあたる(けだし名言)。
小説はなにやら身振り手振りで男達に必死に何かを伝えようとしている。この位置からでは男達の背中しか見えないが、きっとからかいながらニタニタとイヤらしく笑っているのだろう。
「先輩、あのままでは小説があのチンピラ風の男達にどこぞに連れ込まれてしまいます。そうなると全国のラノベファンが色々悲しみます」
「いや、逆に好都合かもしれん」
先輩は携帯を取り出し通話しだした。
遠目で見えていた白衣の男もポッケから携帯らしき物を取り出している。
「アキラ、応用でいけるか」
それは作戦の変更を意味していた。