その才覚
いわれるがまま、少女は身体測定をし体力測定を受ける。
どれも全力でやりはしたが、やはりトップクラスの動きなどできはしなかった。だが、予想だにしないものが面接場で待っていた。
面接官三人が持つ驚愕の表情である。
「君の身長、体重、運動力、そのどれもが同年代の平均とぴったり一致しました」
それがどういうことなのか、少女にはよくわからないし実感もできない。
「ご自身で意識できないのも無理はありません。あなたの特技は他人がいて初めて成り立つ、統計学上の特異点なのですから。そうですね、わかりやすい言い方 をすれば、君は間違いなく空前絶後、この年代において飛び抜けて《普通》、だれがなんと言おうとアベレージ、全国女子のものさし指標になる存在。あなたの イチゲー。それは先ほどあなたご自身がおっしゃったように《普通》」
面接官三人は同調するかのように規則正しく起立すると、揃って礼儀正しく少女におじぎをした。
「私達三人はあなたの入学を許可します。あなたのその特性を最大限まで伸ばせる様、最高のカリキュラムを用意してお待ちしております」
彼らはまるで淑女をエスコートする執事が如く懇切丁寧、礼節まことしやかに少女を見送った。
「では、合格者の方は入学手続きの用紙を受け取り、お気を付けておかえり下さい」
半信半疑のまま、ドアを出ると、背中から次の方どうぞという声が聞こえてきた。
控えていた男が立ち上りドアの向こうへと消えいく。
少女はそのまま呆然とつったっていた。
今このドアから出てきたのは間違いなく自身であり自己であり断じて人身事故などではない。自分は確かに数時間前までここで控えていた。なのに、このドアを一枚隔てた先で体感したことはまるで白昼夢かと疑えるような現実感のないものであった。
もしかしてこのドアは自分の世界とはまったく違う異次元へと繋がる扉だったのだろうか、そのような妄想に耽りながら、少女は待合室のイスに深々と座りこんだ。
隣の空席の上には誰かが落としていったのだろうか、黒いサイコロの様なものがころがっていた。