奇妙なファイル
「先輩君と《鉄棒》君が以前、奴と一悶着あったんだ。神ゲー使い同士が戦うことは最大の禁忌とされているからね。例えメンバーが一年間で代わっていたとしてもあり得ないよ。ナイル川が南に向かって逆流するみたいなもん」
この『校内』ではコナイが持っている常識は通用しない。ここでは暗黙のルールとやらが働き、それが根拠となっている。なら、一々立ち入ったりするのはヤボというものだ。
「オレちん今までそれほど興味なかったんだけどよん、神ゲー使いというのも知っときたくなった。なんかそこから何か別の切り口がみつかるかもしれんからよ」
《ハッカー》はすぐに検索。探り当てる。
神ゲー使い。それを学校側はどう認識し、どう扱っているのか。生徒間ではいわゆる番長のような尊称で伝わっていそうなのだが。
「古いファイルですが、それっぽいものを見つけました」
開かれたファイルには愚神礼讃計画とその概要と書かれてあった。そして、そこに神ゲー使いという言葉も確かに触れられてある。
神ゲー使い、それ神の使い。本質の理解者。守護者の神使。その存在目的、それ則ち神々の敵《殺神者》を葬ることである。殺神者PPPを葬り神への供物として捧げること。これこそ我が校が存在する理由である。
これには三者三様といかず、そろって口を閉ざした。
何度も文面を読みかえすが意味が理解できない。
「PPP、葬ることが目的? なんです、これ」
「放送禁止用語? それともスラング?」
「うちらの言葉ではPPPというと、ネットワーク接続認証に使われるポイント・トゥ・ポイント・プロコトルを意味する言葉ですが、ニュアンスからはどうも違うようですね」
「神ゲー使いがPPPを倒すための存在、聞いたことないよん、こんなの」
土田はすぐにPPPという単語記録を検索するように指示を出した。
《ハッカー》は既にやってますと返事する。彼も彼なりに急いでいるようであったが、素人目にそれは妙に慎重で、かなりゆっくりに見えた。
その間、土田は宙空の一点を見つめ、何か深く考え事をしているようであった。口からお経のような音をつぶやいている。
「PPP、解体神書にある進化種………哲学、心理、生理でもそれは机上の理論であって……」
「辞書項目にはありませんが、礼賛計画書内でヒットした文面を呼び出します」
1/2(半分)の世界を持つ者。それを見つけ出すことこそ、私に与えられた使命であった。我らが始祖の解き放てし災厄。世界の理を乱せし因子。守護者はこれを再び箱へと戻し「連盟」は彼らを管理するため存在する。「連盟」に送るため、私はできるかぎりの才ある者達を集め、その中にPPPが紛れていないかを調べなければならなかった。
イチゲー使いと呼ばれる彼らの能力は非常に高く彼らの努力と才によるものだ、だが、PPPと相対したとき、その圧倒的なまでの生物的違いに遅れをとるだろう。
私は無自覚なPPPを見つけると同時に、イチゲー使いの中から優れた能力者を我らが神の先兵にできるのではないかと思い始めた。
「計画書のはずですが、まるで誰かの日記みたいですね。それとも報告書?」
「他の文面は」
土田は斜め読むように計画書に目を通しているが、語彙が多すぎてなんとも断言しづらいようだ。そのまま《ハッカー》に計画書に対する実地報告書があるはずだと指示する。
数分後、彼はまるで奇跡的な確率に遭遇したような顔で、発見と報告。
そのファイルの日付をみた瞬間の土田のつぶやきは、たぶん無意識によるものだろう。
「先代校長が自殺したとされる日の三日前だ」
それとファイルの内容が無関係だとどうして言い切れようか。
少なくともこの時点では。