《ハッカー》
「ところで、あの先輩はなんのイチゲーを持ってるんですかねぇ」
明石教諭もどこぞに講義にでかけ、初対面の土田と二人残されたコナイはツイッター。
共通の話題があの人しかないというのも、アレだが。
まんざら気にならない疑問というわけでもない。
「ふーん、先輩君のイチゲーに興味をもったのか。でも残念。オレちんも全然知らない」
「いえ、別に興味を持ったというか、ちょっと気になったので、土田さんが知ってないかなーと思っただけです」
「イチゲー使いはそれを理由に設備を使う許可を得ているわけだから、自身のを詐称するのはおろか他者のを憶測でレッテル貼りするのさえ許されてないの」
土田は何かをひらめいたかのようにして、立ちあがると、
「それならいっそ直接聞いたほうが早いかもね」
「先輩に……ですか?」
彼はいじわるっぽく笑みを浮かべて、
「学校側にだよ、それも直接的で秘密裏にね」
土田はちょうどうってつけのイチゲー使いを知ってると述べ。
彼のところにいけばわかるとコナイを科学棟の別研究室へと連れ出した。
その部屋の前には『部外者以外立入禁止』との札がでかでかと貼られてあった。
それを呆然と眺めながら、
「これ、部外者しか入れないですよね、それともなにか意味あるんですか」
「ん? なんか変なところあるの」
もうこれはここの天才達特有の天然的誤字だと推し量れた。
関係者立入禁止と同義語なのだが。たぶん誰もツッコミを入れる人がいないんだろう。
彼はノックすると、急ぎバヤに中の返事もまたずドアを開け、勝手知ったる他人の家よろしくずかずかと入る。コナイもその後ろをおそるおそるついていく。
「《ハッカー》君、ちょいと君の遊び場のひとつを紹介して欲しくてねん」
閉じきった暗い部屋、換気が十分にされてなかったのか匂いがこもっている。
その奥で黙々とパソコンと向かい合っていた男が振り返る。
《ハッカー》と呼ばれた男は、やぼったい茶髪をボリボリかきながら軽く会釈した。
男性研究者の研究室という肩書から足の踏み場もないほど汚れた部屋、という先入観があったが、予想の他こざっぱりとはしていてる。簡単なデフラグ(要るもの、いま要らないものの分類)程度はきっちりとされているようであった。
ただパソコンだけは数種類も置かれそれぞれが何かの処理を行っている。
土田は、学校側のデーターサーバーに侵入したいこと。
先輩のイチゲーを調べたい旨とを説明した。
「あの、土田さん。私、気になるとは言いましたけど。こーいう犯罪めいたものとは普通に関わりあいたくないんですけど」
「大丈夫だよん。イチゲー使いは自身のイチゲーを用いる限りでは、学校側に逮捕されることは絶対にないからねん」
《ハッカー》は腕を組みながら、目を閉じ思案にする。
「ボクの目的はNASAや国防省が保有している宇宙人の技術ですから、ずっとそっちばかり追いかけてました。本腰いれたことはなかったです、それでも抑えてはいますが」
「じゃあ、調べて見てくれるんだねん」
「ええ。いいですよ。ただし条件があります」
《ハッカー》は興味深げにコナイを見つめた。