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長所は短所

「コナイ。彼らには地理とか世界情勢とか関係ないし必要ないし興味ないんだ」

 いつの間にやら先輩が横から入ってきた。

 研究室に入室した気配は一切感じなかったが。

「だが、彼らにしかわからない世界もある。例えばだ」

 懐から数枚の写真を撮りだす。

 そこに映っているのは黒の背景と光る砂粒。

 星座や星雲。銀河と呼ばれるような星々の絵である。

「アキラ。こいつがどこかわかるか」

 ちらりと見たが、コナイにはそれがわからない。

 例えそれが意味ある映像だとしても、規則性のない光の集まりにしか見えなかった。

「これはアンドロメダ星雲か、この写真の日付と時刻、撮った緯度経度を教えてくれるかい」

 教諭はホワイトボードにかかった世界地図を押しのける。

 軽く質問しただけで、その下に太陽系惑星の公転による位置を書き記す。

 それから現在の太陽系の銀河系内の動き、他の銀河系の動きまでを一気に説明してみせた。

 天文学を知らないコナイにはちんぷんかんぷんだったが、二人の反応からそれが正解なのだと実感する。

「これってすごいことなんですか」

 土田はめんどくさいことと言葉を添え。

「スパコンにプログラムを入力すれば、数千万年前の状況を数千万パターンの可能性に分離し、その中のどれか一つが数千万分の一の確率で当たれば御の字といった具合だよん」

 スパコン。スーパーファミコンの略か何かか。

「現在の地球圏、太陽系、銀河系の座標を正確に理解し、宇宙船太陽系号の航海先を知っているのは明石教諭の脳内だけと言われている。ハッブルでも不可能の域だ」

 先輩がフォローをいれる。

 ハッブルさんのことは知らないが、宇宙船地球号の座標確認レベルでないことだけはわかった。

「アキラの三大書籍の一つ完全宇宙儀。そいつは容量がでかすぎたせいで予算の都合がつかずシステム入力が終わった時点で頓挫した」

「そのシステムを保管するのにだって莫大な予算がかかっているというのに。まったくの無駄だよん」

今度は土田が補足する。

「生物学の知識が詰め込まれた解体神書は絶滅動物から既存動物、果ては今後予定される進化種までもが網羅され、DNA解析までもがなされているよん。もちろん他者による補完が必要という点で未完成ではあるけど、この書籍の恐ろしいところは生命創造の領域にまで足を……」

 ここで教諭の鋭い叱咤が飛んだ。

 彼が誰か注意したのを見るは初めてだ。

 土田はカモノハシのように唇をとがらせ。

「物理の知識が書かれたはずの神約新話だけが、まったく評価を受けてなくて発表もされてない。オレちんは読んだけど荒唐無稽な内容。物理の内容が一切書かれず、まるで民俗学の神話の様な物語が書かれているだけ、ちょーつまんなかった」

 コナイがぽかんとしていると、先輩が頭に軽く手を乗せてくる。

「わかったろ。ここでは、周りが自分の良さを理解できないと嘆くよりも、自分が他人の良さを理解できないことを嘆くべきなんだってな」

 教諭は地理も知らないし常識も薄いが、他のところが抜きんでてすごいイチゲーを持っている。つまりはコナイにそーいうことを伝えたかったようだ。

 頭二個分近く大きい先輩を見上げる。

「先輩の持論ですか」

「孔子からだ。言うなよ。周りの奴には自分の言葉のように言ってるからな」

 頭の手をどけようとコナイはしきりに首を動かすが、彼は巧みに手を乗っけたままでいさせようとする。

「イチゲーは尊敬すべきこと。たぶんおまえはこれから自分の道徳観では悪と思えるようなイチゲーに沢山出会うと思う。でも尊敬だけは忘れるなよ。手放しで受け入れろとはいわない。ただ認めるべきは認め。勝つべき時は勝て。負けてはやるな」

 それだけ言うと彼はやっと手をどけた。

 そのポッケから着信音が鳴った。

「メールだ」

 相変わらず一所に定着せず、またどこかへ行こうとする。

 土田がそれを引き留めようと入り口に先回りし、両手を広げて通せんぼする。

「待て先輩君、どこへ行く気だ。まだオレちんの初式魔術を試してないぞ」

 長身の男は肩をすくめ。

「悪いなツッチー。これから運動棟の応援で《槍術》のイチゲー使いとトライアスロンしなきゃならないんだ。おまえも一緒にくるなら相手できるけど」

 どういう状況でトライアスロンに飛び入り参加するつもりなのか。もう聞く気にもなれない。

 それは土田の戦意を失わせるには十分だったようで、彼は口に手をあて震えだした。

「運動棟の人間は人間じゃあない、類人猿ゴリラだ。学名ゴリラ・ゴリラ・ゴリラをゴリとラーに割った宇宙猿人だ。握力とか平気でオレちんの十倍だし」

「じゃあ、また今度だ」

 先輩が行ってからも土田の震えはしばらく続いた。

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