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誰がために鐘は鳴る

「なんじゃそりゃああああああああああああああああああ」

 真っ白に燃え尽き。灰となった対戦者の姿がそこには残されていた。

 プスプスと焦げ跡が聞こえてきそうな、見事な燃え尽き方である。

 コナイ達の横にふらふらと白衣の男が近づいてきた。

 精神疲労から目覚め、痛む頭を抱えた明石教諭。それは状況に追いついていない様子だ。

「ハジメ、一体、なにが起こったんだ。ボクにはよくわからなかった」

 先輩はいみじくも。

「結合破壊。ラノベにおける作者側から読者への三大アストラル攻撃の一つだ。巧妙なフェイントを幾重にも織り交ぜ、致命距離まで引きつけた後に放つそれは、瞬間的ながら精神防御壁(ATフィールドの形成場)すらも破壊する一撃となる。ときに女性作家が天然で放つそれはまさしく天災が如く、それは一部の男性読者の自我崩壊すら引き起こしかねない。すなわち――」

 ヒント・主人公は最後ヒロインの元に向かわず、かつてのライバル(男)を救うため死地へと飛び込んでいった、ラストシーンは想像に任せます。

「――こいつの精神は今。死んだのだ」

 その壮絶な展開に魔術部の大多数もまた真っ白になっていた。

 あまりに凄惨な光景に明石教諭は想像の余地を挟むことができないようである。

「い、一体。ボクが気を失っている間になにがあったんだ」

 グワッ

 燃え尽き、灰になったと思われていた男が突然動き出した。

 未だ生に執着する亡者の如く、墓土から這い上がるかのように腕を伸ばし、息も絶え絶えに。

「まだだ、まだたかがメインエンジンをやられただけ。サイドエンジンとして、SSや同人、脳内補完によるエネルギー回復は可能ッ」

 その危険を察知したのか、先輩がドクターストップをかけた。

「よせ、結合破壊はそれらのリンクすらも切断する術。無理に再接合しようとすれば、おまえの精神はバラバラに四散するぞっ」

 その言葉の通り、無理に動こうとした男はその口腔より血を吐き出すと、悶絶し座ったまま気を失った。

 コナイは詠唱を止めた小説に労いの言葉をかけ。

「どうするの、この人に勝ったら婚姻届けにハンを貰えるってことだけど」

 彼女は興味ないと切り捨てる。

 《飼育》が、それではと。首輪のようなものを取り出し、さっと動いてガチャリ。

 慣れた手つきで燃え尽きた対戦者を捕縛する。

 それはもう草原に吹く春風のよう。とてもさわやかな笑顔で。

「では、このブタさんは飼育部で美味しく調理しちゃいますね」

 おだやかな微笑みを浮かべ、丁寧に礼を述べると、そのまま飼育動物と一緒に持って帰ってしまった。

 よくよく考えればこの戦いであの人が一番得したのではないだろうか。

 そう。コナイはすでにわかっていた。

 この戦いに勝者なんてはじめからいなかったということ。

 人はいつだって時間と共に傷つき、時間によって癒されていく。

 傷つくことでしか、他者の心の痛みがわからない悲しい生き物。

 今回、科学側は虚飾の勝利を得た。

 それが、やがてどんな実を結ぶのか、それは今は誰にもわからない。

 ただ一つコナイにもはっきりわかるのは、小説のラノベの売り上げが一人の人間の精神的死と共に一冊減ったということだけである。

 戦いを終え、暗い部室を出たコナイ達を出迎えたのは明るい光の差し込むいつもの廊下であった。

 帰って行く誰もがいつもの《普通》へと。

「でも、教諭はなんであんなヘンテコ発言したんですか」

 科学部への道中、コナイはなんとなく先ほどからの疑問。テープレコーダーから聞いた教諭の発言についてたずねてみた。

 教諭の普段の言動からああいうことを素面で言うとは考えにくい。

 どういう状況なのか想像だにできない。そして、それはおそらく今回小説が大将戦へと参戦した理由と無関係でないであろうことも。

 コナイは後ろから袖を引っ張られ。

「違うの、教諭は本当は、その……」

 彼女はなにやら照れたように顔を赤らめている。

 一同の視線が小説へと向けられた。

 はからずも会話の中心が彼女に集まった気恥ずかしさからか、押し黙ってしまう。

 顔を伏せ、集団から抜けようと小走りになる。

 目の前は階段である。

「あ、危ないッ」

 足を踏み外した小説。咄嗟に腕を伸ばした明石教諭。彼を巻き込み、二人はきりもみ状に踊り場へと落下した。

 先輩と二人、急いでそちらへと駆けおりる。

 小説は教諭がクッションになることで難を逃れたようである。

 小説をかばう形で、腰を打ち付けた様子の教諭。

 それに気づき、彼女はお礼を言うと同時に必死に謝った。

 医務室までつきそうと頑なに言う彼女に、教諭は心配かけまいとしたのか、全然平気の一点張りであった。

「そうだ、それより科学第二棟にある実験道具を取ってきてくれないか。これから帰って、皆でしたい実験があるんだ」

 彼女は助けてもらった形であるため頼みを断り切れなかったのか、そのまま心配そうにしながらも、実験室へとかけていった。

 それを見送った後、先輩はまるで壊れたプラモデルでも見るかのように教諭を見つめ。

「アキラ、それより腕。あらぬ方向に曲がってないか」

 その指摘どおり彼の腕は生理学上、人体間接において曲がっては行けない方向を向いていた。

 本人も気づいていなかったのか、彼はそれを確認すると同時に表情を笑顔のまま固める。顔色はみるみる青ざめていった。

 教諭の苦悶はまだまだ続きそうだ。

今回で一旦一区切りです。

そろそろ主人公がカワカッコヨク活躍できたらいいなぁと考えてます。




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