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第九章:ワンプレー

中間試験が終わり、校内に再び部活動の声が戻ってきた。

サッカー部では、市内大会に向けたメンバー選定が始まっていた。

顧問の先生がホワイトボードに名前を書き出す。

レギュラーの欄に「佐伯秀太」の名前があった。

ポジションは左ウイング。彼の本来の持ち場

——トップ下ではなかったが、佐伯は黙って頷いた。


「お前の突破力とクロス、左で活きるぞ」と顧問は言った。

佐伯は、少しだけ悔しさを飲み込んで、うなずいた。


補欠の欄には「松岡滋昭」の名前があった。

背番号は27。試合に出るというより、記録係としての役割だった。


練習後、佐伯が松岡に声をかけた。

「なあ、しっちゃん。背番号、27って……なんか意味あるの?」

松岡は、少し照れたように笑った。

「俺の誕生日、5月27日」

「ただの数字だけどちょっと考えてみた

2×7=14はクライフ。

2+7=9はディステファノ。

7−2=5はベッケンバウア。

攻撃、創造、統率——全部、戦術的サッカーの魂を持った選手たちだ。

27って、そういう意味では、全部を含んだ番号だと思っている」

佐伯はしばらく黙っていたが、ふと笑った。

「俺は望んで、クライフの14を選んだ。 あの人のプレーには、

自由と知性があった。俺も、そういう選手になりたい」


松岡は頷いた。

「背番号って、ただの数字やないよな。 そこにどんな想いを込めるかで、

意味が変わる」

「記録係でも、ピッチの外からその魂を見届けたいと思っている」


佐伯はボールを軽く蹴りながら言った。

「じゃあ、27は“全部を見渡す目”ってことか」

「ピッチの外から、戦術の全体像を記録する役割にぴったりだな」


松岡は笑った。

「そういうこと。誕生日の数字も、悪くないだろ?」

夕暮れのグラウンド。風が少し冷たくなってきた。

二人は並んでボールを蹴りながら、黙々と練習を続けた。


市内大会は、もうすぐ始まる。


市内大会、チームは順調に勝ち進んだ。 苦戦もあったが、

チーム全体の粘り強さが光った。

そして決勝の相手は、去年と同じ——宝塚第一中学。

試合開始。

前半は互いに譲らず、スコアは0−0。

後半、ストッパーの副キャプテンが激しいタックルを受け、倒れ込んだ。

ベンチがざわつく。顧問が交代選手を探す中、佐伯が一歩前に出た。

「松岡を出してください。あいつなら、流れを変えられる」

顧問は一瞬迷ったが、佐伯の目に押されるように頷いた。


松岡がフィールドに入る。 緊張はなかった。

むしろ、静かな確信が彼を包んでいた。


副キャプテンのポジションはストッパー。 だが、スイーパと短く言葉を交わし、

リベロとして動くことを選んだ。

前半、苦しめられていた宝塚第一のトップを、松岡は見事な

読みで封じ込めた。

相手のパスコースを寸前で断ち切り、攻撃の芽を摘み続けた。


そして、試合終了10分前——

センターサークル付近で、松岡がボールを奪う。

それまで攻撃には加わっていなかった彼が、ゆっくりと前へ進み始めた。

敵が寄せてくる。

右サイドへのパスを匂わせた瞬間、松岡は佐伯にライナーのパスを送った。


佐伯は自分の目を疑った。

長距離のワンツーだ。

ついこの前、チャンピオンカップでベッケンバウアがゴールを

あげたプレイだ。

これはパサーの質が全てを決める。

通常のワンツーパスとは異なり、受け手がいない空間に、

精度の高いスピード、コントロールでパスを出さないと成立しない。

ワンのパスが全てなのだ。


佐伯はボールを受けた瞬間確信した。このプレイで決着すると。

開いたスペースに走り込む松岡へ、佐伯がツーで返す。

松岡は佐伯にスペースを空けるように左へ流れ、

ゴール前にわずかな隙間が生まれた。


佐伯は驚いた、松岡はベッケンバウアの上を行こうとしている。

佐伯が走り込む。

その瞬間、松岡の足元から鋭いスルーパスが放たれる。

まるで時間の隙間を縫うように、ボールは佐伯の足元へ届いた。


ノントラップシュート。

佐伯の左足が振り抜かれ、ボールはゴール左隅へ吸い込まれた。

歓声が爆発した。

結局これが決勝点となり、市内大会の優勝を飾った。


皆んなが佐伯を囲み、よくやったと胴上げしてくれた。

胴上げされながら少し、悔しい思いをしていた

(俺は目の前にきたボールを蹴り込んだだけ)と。


翌日の宝塚新聞に

「佐伯 悠太 黄金の左足」

とデカデカとのりヒーロ扱いされるようになった。

色々な人が話を聞きに集まってくる。


佐伯はそれから逃げるように、グランドに早く出ていた。

しっちゃんがいつものように何事もなかったようにステレッチを

している。

「しっちゃん、俺の得点は単に前に来たボールを蹴っただけ」

「それまでの組み立てのおかげで取れたみたいなもんだ」


松岡は言った

「サッカーはチームプレーなのでその一コマになっただけだけど」


「あの長距離ワンツーからの組み立てはこの前のチャンピオンカップの

プレーが発想だろ」


「結果としてそう見えるけど。外からチームを見ていたら、

あの組み立ては武器になると思っていた」

「シュートは左側のボジションだが、本来はトップ下で生きる」

「なので、センターとのポジションチェンジがはまれば決まると思ってた」


「ベッケンバウアは自分でミドルを決めたが、スルーパスはその

ためか」


「確かクライフが言っていたけど、次のプレーに移るまえに6つくらいの

プレーを考えている」

「その局面でベストを選べば結果はついてくるって」

「僕はあの時3つくらいしかなかったけど」


佐伯は思った

(まだ、サッカーはじめて一年たってないのにこのレベルだ)

(葉っぱかけるための全国制覇って言ったけど。できるぞ)


松岡は言った

「まだ、シュートの目標の一歩じゃん」

「勝って兜の尾を絞めよ」だな


佐伯はたのもしそうに松岡の肩を叩いた。


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