第六章:口止め
週末の午後。美樹は、宝塚駅から少し離れた坂道を登っていた。
小さな音楽教室——声楽とバレエを中心にした、受験対策スクール。
体験入学の申し込みを済ませたあと、彼女はそっと深呼吸をした。
誰にも言っていない。親にも、友達にも。
この夢は、まだ柔らかくて、壊れやすい。
教室の前で手帳を取り出し、時間を確認していたときだった。
「……ミッチ?」
振り返ると、そこにシュートがいた。 ジャージ姿で、ビニール袋をぶら下げている。
「え、シュート? なんでここに?」
「近くで自主練していた。帰りにジュース買おうと思って」
佐伯は、美樹が出てきたビルの看板を見上げた。
“山本洋子宝塚音楽教室”と掲げられているのに目を止め、
不思議そうな顔で聞いた。
「ここって、宝塚歌劇の入学を目指すスクールだよね?」
美樹は慌てて言った。
「ちょっと、そこの喫茶店で話さない?」
彼女は佐伯の腕を引っ張って、近くの喫茶店シュプールに入った。
席につくと、美樹は真剣な表情で言った。
「ここで会ったこと、誰にも言わないで。お願い」
「宝塚歌劇の受験、するのか」
「うん。そのつもり」
「前さ、俺がサッカーのクラブチームのテスト受けに行ったとき」
[黙っててってお願いしたのに、口滑らせたじゃん」
美樹は申し訳なさそうにうつむいた。
「ごめん。ちゃんと謝ってなかったね」
シュートはいたずらっぽく笑った。
「そっかー。じゃあ、もし俺が口滑らせても『ごめん』で済むのかなぁ?」
美樹は少し考えてから、顔を上げた。
「わかった。口止め料として、月に1回くらい、ここでシュートの
好きなもの奢ってあげる。これで許して」
そして、少し照れながら付け加えた。
「それに、私みたいな素敵な女の子と過ごす時間もついてくるよ」
少し照れながら言う美樹に、シュートは苦笑いしつつ頷いた。
シュートが興味深そうに聞いた。
「宝塚歌劇をなぜ受けようと?」
「ミッチはバスケの優秀選手だろ?バスケだけで手一杯だろ?」
「私ね、自分の可能性や夢に歯止めをかけたくないの」
「まだ、中学生だし色んなことを経験し、選択肢ってゆうか、
自分の将来を見てみたいの」
「それと小学校のとき初めて宝塚歌劇を見た時の感動を
最近思い出したの」
「シュートとしっちゃんが呼び起こしてくれたのよ!」
「この前のたこ焼きパーティの時か?」
「そう、それとね、最近「ハイカラさんが通る」をしっちゃんから
借りて感動したの。この作品の舞台に立ちたいって」
佐伯が聞いた「「ハイカラさんが通るって」何?」
小林が答えた
「今、女子で流行っている漫画」
「そうだ、将来のガールフレンドの夢のため、シュートも読んでよ?」
と言って、西村に返すはずの「ハイカラさんが通る」を渡した。
佐伯「将来のガールフレンド?」
小林が笑いながら。
「ご不満?嬉しいくせに」
「少しでも面白いと思ったら、下の『評価』と『ブックマーク』をお願いします!」




