第22章 揺れる花火
昼休みの教室。
窓から差し込む光が、机の上に淡い影を落としていた。
のりっぺは、ミッチの席に勢いよく身を乗り出した。
「ミッチ、夏といえば何だと思う?」
「え、急に? スイカとか?」
「ちがーう! 花火だよ、花火!」
ミッチはぱっと笑った。
「あー、いいね。夏って感じ」
「でしょ? みんなでやりたいと思ってさ。
しっちゃんも、佐伯くんも誘って、四人でやろうよ」
ミッチは少し驚いたように目を丸くした。
「四人で?」
「そう! たこ焼きパーティとハイキングに続く第3弾のお楽しみ会!」
ミッチはその勢いに押されながらも、どこか嬉しそうに頷いた。
「うん、いいよ。楽しそう」
のりっぺは満足げに笑った。
放課後。
サッカー部の練習が終わり、
シュートとしっちゃんが上がりのランニングを終えるのを待って、
のりっぺが勢いよく駆け寄った。
「お二人さん!」
「……なんだ?」
「今度みんなで花火するから、参加ね!」
「ミッチも誘ったから4人でね。夏の思い出作り!」
シュートは一瞬だけ考えたが、
のりっぺの勢いに押されて、結局うなずいた。
「……わかった。行くよ」
「しっちゃんは?」
しっちゃんの胸がふっと熱くなった。
(ミッチも一緒か?)理由は分からない。
「……わかった。行くよ」
「やった! じゃあ日程はまた連絡するね!」
のりっぺは満足げに走り去っていった。
夏の匂いが、ほんの少しだけ近づいていた。
のりっぺが集合場所に指定したのは、武庫川の河川敷。
風が通り抜け、草の匂いがほんのり漂う。
「わぁ、来た来た! ミッチ、こっちこっち!」
のりっぺが大きく手を振ると、
ミッチが浴衣ではなく、いつものラフな格好で駆け寄ってきた。
「ごめん、ちょっと遅れた」
「大丈夫。ほら、花火いっぱい買ってきたよ!」
のりっぺは大きな袋を誇らしげに掲げた。
ミッチは笑顔で覗き込む。
「すごい……こんなに買ったの?」
「夏はこれくらいやらなきゃ!」
その明るさに、ミッチも自然と笑顔になった。
少し遅れて、
シュートとしっちゃんが並んで歩いてくるのが見えた。
「悪い、待ったか?」
「いや、今来たとこ」
ミッチが笑顔で答えると、
しっちゃんは一瞬だけ視線をそらした。
(……なんで、そんな笑顔なんだ)
ミッチの笑顔は、最近どこか柔らかい。
その理由を知らないしっちゃんの胸は、また小さくざわついた。
シュートは花火の袋を見て、少しだけ口元を緩めた。
「のりっぺ、買いすぎだろ」
「いいの! 夏なんだから!」
四人は自然と輪になり、花火の準備を始めた。
最初に火をつけたのは、のりっぺだった。
「いくよー!」
シュッと火花が散り、夜の河川敷に小さな光が咲いた。
「きれい……」
ミッチが見とれるように呟く。
その横顔を、しっちゃんは思わず見つめてしまった。
(……なんで、こんなに気になるんだ)
火花の光がミッチの頬を照らし、その表情はどこか大人びて見えた。
シュートは黙って線香花火を手に取り、
火をつけてミッチに渡した。
「ほら」
「ありがとう」
二人のやり取りは自然で、特別なものではないはずなのに――
しっちゃんの胸は、なぜかきゅっと締めつけられた。
最後は線香花火になった。
四人は少し離れて座り、それぞれの火花を見つめていた。
ミッチの線香花火が、ぽとりと落ちた。
「あ……終わっちゃった」
その声が、夏の夜に溶けていく。
しっちゃんはその横顔をまた見てしまった。
(なんで……こんなに気になるんだよ)
理由は分からない。でも、胸の奥が静かに疼く。
ミッチがふとこちらを向いた。
「しっちゃん、どうしたの?」
「え……いや、別に」
しっちゃんは慌てて視線をそらした。
ミッチは不思議そうに首をかしげたが、
すぐにまた線香花火に目を戻した。
その仕草が、しっちゃんの胸をさらにざわつかせた。
花火がすべて終わり、四人は帰り道を歩いていた。
のりっぺとミッチが前を歩き、
しっちゃんとシュートが少し後ろを歩く。
シュートがぽつりと言った。
「……いい夜だったな」
「……ああ」
しっちゃんは短く答えた。でも胸の奥では、
言葉にできない感情が渦を巻いていた。
ミッチの笑顔。ミッチの横顔。ミッチの声。
(俺……どうしたいんだろう)
夏の夜風が吹き抜ける。
その風に乗って、
しっちゃんの胸のざわめきは。静かに大きくなっていった。
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