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第17章:ビデオデッキ

翌週の放課後。

サッカー部の部室に、顧問の先生が大きな段ボール箱を抱えて入ってきた。

「おい、みんな。ちょっと集まってくれ」


部員たちがざわざわと集まる。

顧問は段ボールを開け、中から銀色に輝く機械を取り出した。

「阪急グループから、教育支援としてビデオデッキが寄贈された。

 授業だけじゃなく、部活動でも使っていいそうだ」


「ビデオ……デッキ?」

「すげぇ……本物かよ」

当時、家庭にビデオデッキがある家はまだ少ない。

部員たちは目を丸くしていた。


顧問は続けた。

「サッカー部でも、戦術研究に使っていい。ただし、壊すなよ」


その言葉に、シュートの胸が高鳴った。

(これで……世界のサッカーを“見せられる”)


しっちゃんが手を挙げた。

「みんなに聞きたいことがある。

 この前の“西ドイツ対オランダ”のワールドカップ決勝、見た人いる?」


部員たちは顔を見合わせた。

「え?決勝ってテレビでやっていたの?」

「夜遅かったから寝ていた」

「親父が野球しか見ないしなぁ」

手を挙げたのは、わずか3人。


しっちゃんはうなずいた。

「だよね。今の日本じゃ、ワールドカップをちゃんと見ている人は少ない。

 でも……あれは“新しいサッカーの始まり”だった」

「僕がサッカーを始めたのも試合に感動したからだ」

「一度、みんなでビデオを見ないか? 世界のサッカーを知りたくないか?」


部員たちの表情が変わった。

「ビデオで見られるのか?」

「すげぇ……本物の世界の試合か」

「見たい!」


顧問がうなずいた。

「よし、明日から視聴覚室を使えるようにしておく」


翌日。

視聴覚室の暗い部屋に、部員たちがぎゅうぎゅうに座り込んだ。

しっちゃんがビデオをセットし、再生ボタンを押す。


画面に映し出されたのは、

オレンジ色のユニフォームが縦横無尽に動き回る姿。

「な、なんだこれ……」

「ポジションが……ない?」

「全員が攻めて、全員が守っている……?」

それは、オランダの“トータルフットボール”。

世界を驚かせた革命的な戦術だった。


試合が終わると、部屋は静まり返った。

誰もが、言葉を失っていた。

沈黙を破ったのは、しっちゃんだった。

「……みんな。 俺たちも、このようなサッカーを目指そう」

部員たちが一斉にしっちゃんを見る。


「今のままでは、強豪には勝てない。」

「でも、この“オランダの戦術”一部でも使えたrら……

 宝梅中学でも、いいセン行けるかもしれ無い」


しっちゃんの声は静かだったが、

その言葉には確かな説得力があった。


シュートは横でうなずいた。

(発信者はしっちゃんでいい。 俺よりも、みんなに届く)


キャプテンが口を開いた。

「……やってみる価値はあるな」


副キャプテンも続けた。

「面白そうじゃん。やろうぜ」

部員たちの目が輝き始めた。


その日から、宝梅中学サッカー部は変わった。


週3回のビデオ鑑賞。

ワールドカップでの前回王者ブラジルを

トータルフットボールで叩きのめした、

オランダの試合はみんなの

憧れになった。


世界の戦術をノートにまとめる

しっちゃんが練習メニューをコーディネート

毎日の短いミーティングで反省と目標を共有


しっちゃんは、黒板にフォーメーションを書きながら説明した。


「ポジションは“役割”じゃなくて“状況”で変わる。

 誰がどこにいても、チームとして機能するようにする」

「そのために、全員が“考えて動く”練習をする」

部員たちは真剣に聞き入っていた。


そして迎えた練習試合。

しっちゃんはまだレギュラーではないが

ピッチ外から指示を出す。

「状況を見てポジションを変える!スペースを埋める!

 ボールを失ったら全員で切り替え!」


最初はぎこちなかったが、

徐々にチームが“ひとつの生き物”のように動き始めた。

相手チームの監督が驚いたように言った。

「宝梅……こんなに動くチームだったか?」


試合後、キャプテンがしっちゃんに言った。

「……すげぇよ、これ。 今までの宝梅とは全然違う」

シュートも笑った。


しっちゃんは照れくさそうに笑った。

「まだ始まったばかりだよ。 でも……このサッカーなら」


宝梅中学サッカー部の“革命”は、

静かに、しかし確実に始まっていた。


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