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乙女クソゲーの世界で婚約破棄されたので、私は推し(攻略対象外)と幸せになります

*考えたらダメなやつです。ジャスト フィールでお願いします。


「ヴィクトリア・ローゼンハイム! バナナの皮をばら撒いてセフィナ令嬢を怪我させようとした罪によって、貴様との婚約は、この場を以て破棄する! 」 


 きらびやかな夜会にアルベール・グレイソン伯爵子息の怒号が響き渡った。


 シャンデリアの光に照らされた彼の顔は、正義感に酔いしれた悦びに歪んでいる。

 その傍らには、いかにも「悲劇のヒロイン」を装ったセフィナ・グラッサム伯爵令嬢が、これ見よがしにアルベールの腕にしがみついていた。


 ヴィクトリアは扇で口元を隠したまま硬直した。

 婚約破棄されたショックではない。

 その「罪状」があまりにも、あまりにも……あまりにもだったからだ……。


(……バナナの皮。今、こいつバナナの皮って言ったわよね?)


 その瞬間、ヴィクトリアの脳内に前世の記憶がよみがえる。


(そうだ、ここは前世で暇つぶしにプレイし、そのあまりの酷さにコントローラーを投げ捨てた伝説の乙女クソゲー『イケメンパラダイス外伝 ~恋の迷宮はバナナの香り~』の世界だ)


 一部の熱狂的なクソゲー愛好家たちの間でクソゲーオブザイヤーを受賞した真のクソゲー。

 設定はガバガバ、攻略対象ヒーローはクズばかり。しかもなぜか全員が微妙に前のめりに突っ立っている。

 そして何より、シナリオライターが重度のバナナ中毒だったのか、あらゆるイベントにバナナが絡むという狂気の内容だった。

 タイトルに『外伝』とついているが、もちろん本編はない。

 このゲームを作った会社は大赤字で倒産したらしい。


「黙っているのは罪を認めた証拠だな!」

 

 アルベールが得意げに指を突きつける。

 よく見るとアルベールも微妙に前のめりに突っ立っている。

 今まで何も不思議に思わなかった自分が一番不思議だ。


「……アルベール様。確認ですが、私はいつ、どこでその『バナナの皮』を撒いたのでしょうか?」 


「しらばっそれるな! 昨日の放課後、セフィナが貴族学院の二階に向かう階段だ! 彼女は危うく滑って転び、全治3時間の大怪我を負うところだったんだぞ!」 


(全治3時間……。それ、ただのかすり傷じゃないかしら)


 溜息をつくヴィクトリア。

 このクソゲーの住人は、知能指数がバナナ1本分くらいしかない。


 ちなみに、このゲームにおいて「バナナの皮」は最強の暗殺兵器扱いだ。

 踏めば最後、対象を強制的に転倒させ、社会的抹殺(主にパンツが見える等の恥辱)をもたらす恐ろしいアイテムなのである。


 バナナの密輸・所持は法律で禁止されている。

 バナナが完熟すればするほど、その罪は重くなる。

 緑色の未完熟バナナなら罰金、茶色の完熟バナナなら懲役は免れない。


「いいですか、アルベール様。私は昨日、ずっと図書室で勉強をしておりました。司書の方も証言してくださるはずですわ」


「黙れ! セフィナが『ヴィクトリア様がバナナの皮を剥きながらニヤニヤ笑っていた』と言っているんだ! 彼女の清らかな心が嘘をつくはずがない!」 


 興奮してどんどん前のめりになっていくアルベール。

 今ではもう、スキージャンプ選手なみの前のめり具合だ。

 一体どうやって立っていられるのか気になって仕方がない。


「ええ、あのときは本当に怖かったですわ……ヴィクトリア様、バナナの皮はちゃんとゴミ箱に入れてくださいませ」 


 セフィナがわざとらしく涙ぐむ。

 ただし、左手に目薬を握ったままだ。


 ヴィクトリアは周囲を見渡した。

 本来なら、ここで「悪役令嬢」としての断罪が完成し、国外追放か投獄される運命。

 けれど、ヴィクトリアは知っている。

 このゲームには、一人だけ「まともな人間」が存在することを。


「……そこまでおっしゃるなら、婚約破棄、喜んでお受けいたしますわ」 


「ふん、潔いな! セフィナこそが僕の真の婚約者だ!」 


 アルベールはセフィナを抱きしめる。


 拍手喝采が起こり、沸き立つ会場。


 アルベールの腕に包まれたセフィナは勝ち誇った笑みをヴィクトリアに向けた。


 しかし、ヴィクトリアは一点を見つめていた。

 壁際にひっそりと佇む、影のような男。

 黒髪を無造作に流し、冷徹な瞳でこの茶番を見つめている美青年。

 彼こそが、このクソゲー唯一の良心。

 あまりにも(ほかと比べて)まともすぎて攻略対象から外された悲運の公爵子息ギルバート・ベルティエだ。


 婚約破棄を突きつけられ、会場から追い出されそうになったヴィクトリアだったが、彼女は止まらなかった。

 堂々とギルバートの前まで歩いて行ったのである。


「ギルバート様。突然ですが、私と婚約していただけませんか?」

 

 会場が静まり返った。


 アルベールが「何をバカなことを! 公爵家のギルバート様がお前のようなバナナ女を選ぶはずがないだろう」と騒いでいるが無視だ。


 ギルバートは、ヴィクトリアをじっと見つめた。

 その瞳は深海のように深く澄んでいる。


「……正気か、ヴィクトリア嬢。君は今、バナナの皮を撒き散らした稀代の悪女として断罪されたばかりだが?」


「あれは濡れ衣です。それに私とギルバート様は同類です。あなたは今、真っ直ぐに立っておられます」

 

「……ほう」 


 ギルバートの口角が、ほんの少しだけ上がった。


「君はこの世界の秘密に気づいたのか。だが、この世界からは逃れられない。婚約破棄した直後に婚約など、社交界でなんと言われるか分からないぞ」

 

 「構いませんわ。むしろ、こんなクソゲー仕様の社交界と縁を切れるなら本望ですわ」 


 「ふっ……面白い。いいだろう。私が君の身の潔白を証明してやろう」


 ギルバートがヴィクトリアの腰を優しく引き寄せる。

 

「なっ、なにをなさるのですか、ギルバート様っ!!」


 イケメンに触れられて不覚にもドキドキしてしまう。


「私を信じろ、ヴィクトリア! 私を信じて、私と踊ってくれ」


 その瞳は真剣そのものだ。

 戸惑いつつもヴィクトリアはギルバートにエスコートされながら踊りだす。


 貴族たちはポカンと口をあけて二人を見つめている。

 静まりかえった夜会。

 その中を二人だけが踊り続けている。


 間近で見るギルバートはクール系超絶イケメンだ。

 冷たい印象を持っていたがその瞳の奥は深く澄んでおり、何故か安心する。

 ギルバートの温もりがゆっくりと伝わってくる。

 

(こんな穏やかな気持ちになれたのはいつぶりだろう?)


 ダンスを踊りながら、ヴィクトリアはぼんやり考える。

 前世は社畜OL、この世界では貴族令嬢。

 ただひたすら、誰かの期待に応えるためだけに自分を犠牲にしてきた気がする。


 ギルバートはヴィクトリアをまっすぐに見つめる。


「ヴィクトリア、私と結婚してくれ」


「はい……喜んで」


 思わず言葉がこぼれる。

 一ミリもためらわなかったことにヴィクトリア自身が一番驚く。


その瞬間、床が黄金色に光り輝いた。


「な、なんだ!? 床が滑るぞ!」

 

「ぎゃあああ! バナナだ! バナナの皮が床から無限に湧き出してくる!」 


 貴族たちの叫び声が会場に鳴り響く。


 これはクソゲー最大最低のイベント――『バナナ・ハザード』! 


 両想いのカップルが成立すると、なぜか会場に大量のバナナの皮が出現し、カップル以外のメンバー全員転倒させる謎イベントだ。


 噂には聞いたことがあったが、ヴィクトリアでさえもこのイベントを見るのは初めてだ。

 大抵のプレイヤーはヒーローと結ばれる前にクソゲー過ぎてコントローラーを投げ捨てる。


「アルベール様! 助けて……きゃっ!」


 セフィナが華麗に滑り、空中で三回転半した。

 時代が違えば有名なフィギュアスケート選手になれたでしょう。


 「セフィナ! 今助け……ぐわっ!」 


 アルベールもまた、バナナの皮に足をすくわれ、前方に倒れる。

 あれだけ前のめりに突っ立っていれば当然だ。

 時代が違えば有名なスキージャンパーになれたでしょう。


 貴族たちがどんどん転倒してゆく。

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 いや、バナナ絵図。


 ギルバートだけは平然とその中を歩き、セフィナのもとへ行く。


「ギルバート様、助けてくださるのですね。ありがとうございます」


 倒れたままギルバートに手を差し出すセフィナ。


 ギルバートの手はセフィナの手を通りすぎ、セフィナのバッグから飛び出している一枚の紙を拾いあげる。


「この領収書はなんですか、セフィナ嬢。昨日付で111本のバナナを密輸されておりますね。貴族院にばら撒かれたバナナの皮の数と同じです。バナナの品種まで全く同じです。とても珍しい品種で、偶然の一致なんて起こり得ません。もう言い逃れできませんよ」


「そっ……それはあの……」


 未熟なバナナのように青ざめるセフィナ。


「みなさん! この領収書が動かぬ証拠です! ヴィクトリア嬢はバナナの皮を仕掛けてはいない。ヴィクトリア嬢はバナナの身のごとく潔白です」


 声高らかに宣言するギルバート。


「あなたがこうすれば上手く行くって言ったせいじゃないっ!!」


 セフィナはバナナの皮をアルベールに投げつけている。


「あぁ……もう何もかも終わりだ……」


 両手で顔を覆ってうなだれるアルベール。


「ヴィクトリア、行こうか。この愚か者たちの相手をするのは時間の無駄だ」


 ギルバートはヴィクトリアを抱きかかえる。

 

「ギルバート様……この抱き上げ方は……?」

 

「お姫様抱っこ、というやつだ。あの乙女ゲームでも人気のシチュエーションなのだろう?」

 

 ギルバートはいたずらっぽく微笑む。


 (……この人、やっぱりあのゲームの経験者だ!)


 確信するヴィクトリア。

 ギルバートの両腕に包まれながら、ヴィクトリアはあのクソゲーに対する評価を改めた。



――あのゲーム、ちょっといいかも




最後まで読んでくださりありがとうございました!

作品を読んでちょっとでも面白い、続きが気になると思われましたら、

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作者がひとりでひっそり小躍りしながら喜びます。


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