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散歩

 早朝、朝食の前に何となく散歩に出た。

 夜中に宿を抜け出す気配のあったシロはまだ戻っていないようだった。


 少し歩いて異常を感知する、酷く弱った今にも死にかけそうな人がいる。


 人通りが更に少ない裏路地、この国にも浮浪者はいるがそんな死にかけ方ではない。もっと事件性のある死にかけ方。


 私は風のように屋根を飛び越え、路地を駆け抜ける。


 裏路地の更に奥の細い道とも言えない空間にその男はいた。

 見れば随分とかぶいた身なりをしており、はだけた女物の着物はボロボロの血染め、同じく女物のカツラはズレ、厚い化粧は遅い血と汗によって無残に崩れていた。



 「んあ、巫女、様? ……最期をお偉い巫女様に看て貰えるたあ思わなんだ。どうか、このしょうもない男のお話を聞いてくれませんですか」



 男は私の姿を認めると急に息を吹き返したかのように饒舌に喋り始めた。こっちの返事も待たずに話しを続ける。


 それから男は話しを行ったり来たりしながらつらつらと喋る。  


 話を整理すると、男はその昔、土地を継げずに家を追い出され、竜教昇竜派に入信。頭角を表し高魔力地帯での荒行をこなすも嫌気が差して人里に降りてフラフラしてたところ腕っぷしを見込まれ花街の用心棒として生活していたらしい。


 そして男は聞き逃すことのできないことを言う。



「俺はお尋ね者なんだ。近頃話題の歌う辻斬りとは俺のことだ」



 護衛の際、男は耳が良く、客の話しを盗み聞いてしまうのだという。そこで自慢気に語られる悪さを聞いていくうちに怒りが湧いて、とうとう許せなくなってしまった。


 男は顔や姿を覚えられないためにあえて珍妙な格好をして、声も歌声の方を印象付け、ついでに悪事を後悔するような歌詞にだとかなんとか。


 1回やって捕まらなかった男は、これまで自己判断で悪人だと思った客を次々に闇討ちしたのだという。コソコソ遊びに来る客は護衛が少なく、また男も強かったため面白いほど上手くいっていた。


 軍の警邏に見つかっても蹴散らして撒いてしまうことができていた。誰も俺を止めることなどできやしない。そう思っていた。そう思いあがっていた。



「見たこともないやつらだった」



 NINJAである。この男きっとニンジャにその思い上がりをただされたのだ。非常に連携の取れた集団に瞬く間に囲まれたのだという。


 返り討ちにされ、致命傷を負ったにも関わらず逃げおおせたこの男も大概化け物であるが。



「最期に、聞いてくれ……チャン、チャカチャッチャッ────」



 男は息も絶え絶えだというのに急に歌い始めた。



「お上の裁かぬ獣を討っていたら〜、歯止めが効かずにやり過ぎました〜、私こそが、畜生……」



 そして男はそのまま息を引き取った。

 つまりは社会が強過ぎる個人、少し弱い私の御同類に打ち勝ったのである。とてもめでたい。



「リアンヌ様!」



 シロがわざわざ着替えてから私に会いにきた。

 少し魔力量が少ない、怪我をしているのかもしれない。



「この男は……」



 茶番だが辻斬りだと説明。その後軍から長い聴取という名の拘束を受けるかと思いきやシロが何か手を回してくれたのかあっさり解放された。


 そして何より辻斬りには高額の賞金が掛かっていたのだが、その一部を貰うことができたのである。


 都会にも金になる獣はいたのだ。あと早起きはするものである。


 私はごきげんなためシロを連れ回さない様にこの日は宿で過ごし、後日、膨らんだ財布と共に店巡りを行なった。


 西皇都での用事は済んだため、早々に発ち、拠点の島へと戻ってきた。シロは最寄りの集落に置いてきた。竜への信仰心からか素直に従ってくれて助かる。






「リアンヌ、私の巫女として天竜と公に会って欲しい」



 拠点に戻った私は赤竜様からそう告げられた。

 何でも天竜様と話してそうするのが良いと決まったのだとか。



「承知致しました」



 思うところがない訳ではないが私はそれに従う。


 シロを待たせているがあれは勝手についてきているので、いつも通りのリフレッシュ休暇を満喫する。





―――――――――――――――――――――――――――




 俺は生まれたときから特別だった。

 誰よりも大きく生まれ、誰よりも大きく育った俺は、誰よりも力を持っていた。


 誰もが持て囃す。

 俺の思い通りにいかないことなんてない。

 俺は頂点に君臨できる。

 

 でもそれは人の枠組みでの話だった。

 皇都に出て初めて天竜様を見かけた際、すべてがどうでも良くなった。


 人に生まれた時点で常に絶対的上位存在に君臨されているのだ。

 俺は生まれた村に帰って慎ましく暮らし始めた。


 それが覆ったのはある女に出会ったからだ。

 その女は巨漢である俺と並ぶ程に背が高く、それでいて美しかった。だが最も注目すべきその身に溢れんばかりの力を宿していたことだ。竜にも手がかかるかもしれない、そう思わせる力であった。


 彼女こそは「天」を頂くに相応しい女人、「天女」なのだと俺はそう思った。


 俺は再び村を出た。

 「天」を冠するほどの人になり、竜を降して俺こそが「天」となるために。

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