西皇都にて
西皇都。皇国における経済の中心地である最も大きな都市。政治的、宗教的中心地は皇都であるが、皇国における影響力はその皇都にも引けを取らない。
私は新たに同行人を迎えその大都市に着いた。
しかし、道中その同行人についてわかったことがあった。
シロ、彼女はNINJAである。
アイエエエエ!? ニンジャなんで、とは驚かない。
皇国に諜報組織から人を付けられることはこれまでも度々あったからだ。それに素性は始めから怪しかった。
とはいえ、近い距離で長時間同行するのは初めてであり、異世界産とはいえ生忍者に感動を覚えていた。
まず彼女の忍者的行動は魔法により編み出された風と振動の超知覚がなければ補足ができない匠の技であった。自然な行動の中に綺麗に混ぜられた情報の受け渡しは華麗であり、暗号が介されていたり、視覚的に補足できないこともあって内容までは読み解けなかった。
おかげで道中は退屈せずに済んだ上に、シロは体力もあり常人であればハイペースな移動も休憩が少なくとの一切問題なくついてきていたので私のペースで移動できていた。むしろ隙あらば世話を焼いてくれるため非常に快適である。
今も宿をとってくれている。忍者だらけ、仕掛けだらけの宿を。
しかし、私自身にやましいことはなく、怪しい政争などに巻き込まれない限りは安全な気がする。最悪全部吹き飛ばせば良い。
「巫女様」
「リアンヌでいい」
「リアンヌ様。リアンヌ様であれば心配は要らないとは思いやすがこの西皇都で最近、辻斬が出るとのことなので一応お耳に」
物語のお約束であれば対峙する羽目になるな。
「辻斬とは物騒ね」
「何でも歌いながら斬るらしいですね」
狂人の類いだろうか? 興味はイマイチそそられない。
「ささ、物騒な話はさておき、リアンヌ様がお待ちの珍品屋さんへ向かいやしょう」
シロの案内でたどり着いた店は外観こそ寂れて目立たない店であったがさすが忍者の店、まさに珍品だらけであった。あるいは私のために出したのかもしれないが手に入るならオールオッケー、忖度歓迎。
宝石類に細工品、古代の遺物、何かの生き物のミイラ。他にも心躍る品揃えであった。ただ値段は容赦ないため吟味して購入物を決めていく。
ちなみに珍品の中でも古代の遺物は前世基準の古代文明の遺物から滅びたと遠い昔に滅びた思われる割と現代的な文明の遺物が混じって存在している。現代人的感性を持つ私としては前者のほうが好きだが後者の方が人気が高く値が高く付いていることが多い。
一応実はこの世界は異世界ではなく遠い未来説も考えたりしたが知ってる言語が書かれた遺物に遭遇したことがないので考えるのをやめている。前世では言語学を習っておけば良かったのかもしれないと思ったがたぶん興味が持てないのでこれでいいのだろう。
この世界の忍者グッズとかないかなと思ったけど売っている訳がなかった。あとファンタジー異世界らしい物品も欲しいところだがそういうのもほとんど存在しない系の世界なので諦めである。魔道具とかロマンなのに。
財布を軽くしつつお土産を手に入れることができた私としてはホクホクである。あとは雑貨屋巡りをしつつ帰還しよう。あまり人里に長居するのは得意じゃない。
あと西皇都でいつもの小遣い稼ぎは騒ぎになり過ぎてできないのと、頼みごとの類いも商いとしてやっている連中と競合するため収入を得るのに向いていない。
まあ単に金になる獣を狩るのに慣れ過ぎて、今更普通の仕事をするのが面倒なのもある。
なぜ今世にはギルドや冒険者というのがないのであろうか? あればあっという間に成り上がることができる自信があるのに。
不貞腐れながら今日はもう宿に戻る。念のため布団や畳に魔法で熱風を浴びせる作業があるからだ。
―――――――――――――――――――――――――――
「チャン、チャカチャッチャッ、チャチャンカチャッチャッ」
夜の辻に男のごきげんな歌が響く。
客を乗せて花街に向かっていた籠屋は前方に立ち塞がる影からその歌が聞こえることから、酔っ払いが道を塞いでいるのだと考え声を荒立てる。
「どきやがれい!」
しかし影は退かない。距離が近づいても退かないため仕方なく脚を止めた。客のお付きのものも同じく警戒して足を止める。
すると影の方が近づきその姿があらわになる。その男は女ものの着物を着崩してきており芸人か狂人の類いだと思われた。
「民の富をすすりながら〜、賄賂に手を伸ばし豪遊三昧〜」
しかしその腰に剣を帯びていることを見て慌ててお付きのものが護衛として剣を抜いたところ男の歌が変わる。
籠の客人も何事かと籠から顔を出す。
「畜生〜〜!!」
急にそう叫ぶやいなや、男は踊りかかり惨劇の夜が始まった。