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魔力、魔法、戦闘

 今世と前世の大きな違いは世界に満ちる魔力だろう。

 この世界の生き物は皆、魔力の影響を受けている。


 生命の意志に従い、あらゆるものの性質を変えたり、またはそのものに成り代わる、前世から考えれば超常的な物質。


 強くその影響を受けた生き物はより強靭に大きく、時には姿さえも変えてしまう。それは人も例外ではない。


 この世界に生れ落ちたときその異質さに大変な恐怖を覚えたのは朧げだが記憶に残っている。ただし体は魔力に順応したものであり、魔力を扱う感覚という未知の感覚にも程なくして慣れた。


 既にこの世に生を受けて25年は経つ。その性質と扱いの検証はそれなりにできていた。ただしその表現はかなり感覚的なものになる。


 魔力はこの世界で生きる上でかなり重要な要素であるが体系的にはまとめられているものは出回っていない。各家々で口伝えで伝えるなどの秘匿のされ方をされていたりしている。


 そして私は前世でも大学を卒業する際に簡単な論文もどきを書いた程度の経験しかないこともあって学術的な考察みたいなものはできていない。人はこんな時にもっと真面目に勉強しておくんだったと後悔するのだろう。


 私は以前に自身が切り拓いた道を魔法で均しながら、そんなことを考えていた。


 魔力の根幹的な扱いは呼吸のようなもので無意識に行われる。外の荒々しい野生の魔力を取り込み、従順な内の魔力に変えて生命活動に利用する。このような表現なのは内の魔力に変わる前の魔力は生命にとって毒であり、そのままでは体を傷付けるからだ。不思議なことに内魔力には外魔力による体の破壊を防ぐ効果もある。


 そして目視することが出来ていないが生物の体には魔力の精製を行う細胞のようなものがある。体内の魔力の流れを追えば自然に感じられることである。ちなみにどのような過程で精製されるかだとかだが、その神秘の研究はお偉い学者様がやれば良いと思う。


 更に利用する段階になれば種族差と個体差が強く出る。無意識レベルなのか、少し意識がいる手足の扱いのレベルなのか、集中して扱う道具なのか。


 人は他の生物に比べると魔力の恩恵が小さい。わかりやすく言えば強化倍率だろうか。人間は巨大化しても大蛇様レベルにはならない。


 でもそれは人が弱いことにはならない。


 私は大蛇様のような怪物的な野生動物の特異個体と、怪人と呼ぶべき人の特異個体であれば後者の方が余程厄介だと感じる。特にこの先に待ち構えているような武芸者の類いが変じた者は。


 薄く伸ばした魔力の風が捉えた人と思われる対象は1。運んでいた荷物の類いを下ろす。


 元々派手に魔法を使いながら進んでいたため、あたりに荷を荒らすような獣はいない。


 対獣用の薙刀を担ぎ歩をすすめる。

 薙刀は儀礼用のものよりも更に大きく、1mを超える刃渡りに成人の横幅と厚みのある鉄塊であり、ファンタジーな今世でもお目にかかれない逸品である。おふざけにしか思えないが巨獣の頭を吹き飛ばし落とすためには、これくらいの獲物で切り込みを入れる必要があるのだ。

 もちろん対人には向いていない。


 目視が可能な距離に近づいた。

 今世は目が良くて助かる。


 武人と思わしき男。はち切れんばかりの魔力を感じていたが、その見た目も猛々しかった。ザンバラな髪に伸ばしっぱなしの不揃いなひげといい加減な身だしなみだが、無惨に汚れている服装は上等なものに思える。


 だが特筆すべきは額から偏って伸びている1本の角だろう。人が魔力に強く影響を受けた存在、悪魔、獣人、仙人、数ある中の一つ、鬼。若く見えるが、見た目通りの存在ではないだろう。


 そして私は対人戦が苦手である。格上や同格に勝つのは難しいし、なんなら格下にも容易に負け得るくらいにはセンスがない。


 だから私の戦いに誉れはない。


 魔法を全力で起動していく。

 縮尺を間違えたかのような体躯に異常な大きさの武器、目測が少しでも狂ってくれたら儲け物。

 相手の目的も理由も聞かない。そんな余裕はないから。

 会話が始まるかも怪しい距離。

 超人といえど戦闘の間合い外。

 

 だから仕掛ける。


 魔法を起動する。

 派手な爆発が起きる。

 私のすぐ後方で。


 もちろんミスではない。これが魔力と魔法の性質に伴った最適な運用だからだ。

 内魔力は他者の内魔力と打ち消し合うのだが、魔力は変換したての状態だと同様に打ち消される上、倍率の問題なのか変換前の魔力量に比べて変換後の相殺に必要な魔力量は少ない。

 だから魔法は余程格下相手でなければ直接ぶつけない。それもぶつけるなら魔力から作られていないものに運動エネルギーを与えるという抜け道がある。だがそれでは魔法で対処される。


 その結果がこの運用。

 私が吹き飛ぶ。


 魔力を変換なしで局所的にぶつけるには操作と減衰の関係で近づくしかないからだ。


 それでもこんな運用ができる存在はそう居やしない。

 初見殺し。


 豪速で近づく大質量の振り下ろし。

 しかし大振りで隙だらけ、距離もあった。

 

 虚を突かれて慌てた横っ跳びの回避は衝撃と風圧で体勢を大きく崩してはいた。

 しかし、相手もさすがは化け物。片脚だけで踏ん張り無防備な私の右半身へ斬撃を放つ体勢に移っていた。剣の刃先には魔力が集まっている。魔法の強化を解き、そこを斬りつける人の技。魔力の多寡をひっくり返す繊細な魔力操作こそが人の強み。


 そのままであれば斬りつけられていた。

 しかし、そうはならない。


 二度目の爆発と共に私の服を突き破って無数の鉄片が魔力の風と一緒に吹き荒ぶ。

 名付けて人間クレイモア。


 今度こそ吹き飛んだ男。しかしまだ動いていた。咄嗟に剣の軌道を変え、攻撃のために集めていた魔力を防御に回せるだけ回したしたのだろう。致命は避けられてしまっていた。しかし男は服はズタズタになり、血が滲んでいない部分がなかった。

 前世であればそれで安心できたかもしれないが、今世の人間の生命力は高く、目の前の男は超越者。闘志を失っている様子は見られない。


 しかしその目が私を捉えたとき、大きく見開かれた。

 投擲を終えた私と迫る短槍が映ったのだから。


 私は吹き飛んだ勢いで構えながら袖から滑らせた短槍を握り、相手の内魔力が充足する前に止めを刺すべく、魔法の強化ごとブチ抜く投擲を行っていた。

 体勢が整っていれば、直前に面での攻撃を受けてなければ、傷だらけの肉体でなければ、せめて一息入れられていれば耐えられたのかもしれない。


 でもそうじゃなかったから。


 男は再び吹き飛び、木に叩きつけられる。

 正真正銘連撃の終了。

 残心を意識しつつ、息を入れ様子を伺う。


 男は体に大穴を空けられ木に縫い付けられていた。

 魔法により、近づかずともその生命が徐々に失われていっているのがわかった。


 念のためにもう一発、今度は石を投擲。

 今度は体が上下になき別れる。

 

 名のある武人だったのかもしれない。

 私は赤竜様へと捧げるために男の遺品を漁り、その首を落とし持ち帰ることにした。


 体は丁寧に火葬し埋葬、戦闘痕を可能な限り偽装してようやくこの場を去ることができた。


 魔法で強化緩和しようとも、爆発の衝撃は痛く、そして熱い。

 少し休息したのちに早急に休むべく、荷を回収し人里を目指した。



―――――――――――――――――――――――――――



 わっちは任務として赤竜の巫女を名乗る者を追って、未開の島である精霊の地を訪れていた。

 海は何度も渡りたくないが、ここに永住するのは考えられない。


 人が住むには向いていないような土地にもたくましく生きる現地の人々の存在には驚いた。


 気になるのは巡礼の旅芸人として巫女を名乗った際の人々の反応だ。種類は多少違えど一様に妙な緊張をしていた。

 

 特に危険な集落の外で行動する立場の者たちは強い警戒があり、情報の収集が難しかった。単に集落の守護を担っているからだけだとは思えない。


 その疑問は外の荒々しい道が全て巫女が1人で拓いたと聞いて氷解した。更に巫女が討ち取った大蛇の頭骨を見た際には思わず絶句してしまった。


 そして月が一度満ち欠けするほど前に起こったという激しい爆発の跡地は酷いものだった。木々は倒れ、大地は抉れところどころ燃えた跡がある。これを人が起こしたというのであれば巫女はとんでもない術師だ。何かを燃やした跡は炭化どころか溶けてガラス状になっている部分もあった。


 何かを埋めた痕跡があったので掘り返してみれば中には炭と灰のみ。埋められていたおそらく遺灰と考えられるものは少なく、伝え聞く巫女は獣であれば丸々持ち去ることを考えるとこれは人なのかもしれない。


 巫女がここまでして討ち取った人についても興味は尽きないが、私の本懐は巫女の調査である。その足跡を追い、可能であれば接触しなければならない。

 任務は必ず遂行する。竜皇様より天の字を賜りし草の者、天草として。

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