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白竜

 ああやってしまった。

 シロに完全に見られてしまった。


 普段よりも更に高くなった視座から見下ろす。

 大百足はこちらを完全に警戒していた。元々臆病な生き物なのだ。だからといって逃しはしないが。


 機を図る必要もない。


 魔法で作りあげられた即席の肉体には欠点がある。

 それが質量が伴わないこと。その解決は時間経過のみ。


 今の状態はパワーだけはある風船である。

 移動も空気抵抗がきつい。


 だが空を飛ぶことができる。魔法による気体操作。


 ふわりと飛び立つ私に大百足は何もできないまま上を取られる。


 普段であれば質量をある程度得ているため、飛び付いて固定をするが仕方ない。


 大百足目掛けて口を開く。


 ────竜の息吹。


 それはその実光学兵器である。レーザーが大百足を焼いていく。暴れて砂埃がたつが、多少拡散したところで奴を焼くのに十分である。


 私は奴が動かなくなるまで照射した後、シロの下に巨体のまま、降り立つ。


 シロは口をパクパクと何事か言おうとしていたがそれを遮る。



「この身は赤竜様より賜わりし心臓によるもの、口外無用である」



 そう言い残し私は皇都へ向けて飛び立つ。そして途中この身を廃棄するため海に沈めねばならない。


 質量を持たない状態の肉体は魔力操作で消滅するが、質量を得た部分が残るからだ。






 皇都。

 皇国の政治的、宗教的中心地。皇都沖の海中には天竜が座す竜宮がある。


 皇国を治める竜皇は天竜の血を引いているらしい。


 私はそんな竜皇の居城の奥、どこか神聖な雰囲気のある場所に通されていた。


 天竜の間。

 文字通り天竜様が外より降臨される場所。



「楽にせよ。遠路はるばる足労感謝する、巫女よ」



 天竜様は西洋竜ではなく日本の龍という感じのお姿をされている。



「また、客人であるのに、賊に怪物と民の安寧を脅かすものを討滅大義である」


「ありがたきお言葉」



 人払いされ、私と天竜様以外誰もいない。



「黒は滅びを止め、古き白は禁忌を犯し、黄金は教えを改め、天は子を成し、赤は新しき白を作った」


「それはなんでしょうか?」


「竜の罪だ」


「────っ!」


「身構えずともよい」



 何が身構えずともよいだ。

 つまりは天竜様は私の存在を罪だと言ったに等しい。


 前2つはわからないが、残りはわかる。黄金は大陸西部の宗教の総本山に座す黄金竜様、天は目の前の竜皇国の天竜様、赤は私にチートを授けた赤竜様だ。



「巫女よ、私はそなたを新しき同胞だと思っている」


「私は竜ですか?」


「そうだ」


「人ではないですか?」


「人でもある」


「竜の罪とは何ですか?」


「その責を問われ続けるものだ」



 天竜様は私に何が言いたいのか。力を容易く振るうなと釘を刺したいのだと思うが。



「我らの羽ばたきは多くを曲げる。巫女、いやリアンヌよ。そのことを留意せよ」


「承知致しました」



 非常につまらない叱責であった。

 もう少し大人しくしていろということだ。


 そんな忠言には辟易している。やるなら徹底的、突き抜けなければいけない。その後悔は二度と味わいたくないから。





 天竜様との接見が終わった私を出迎えたのはシロであった。口外無用と伝えはしたが忍者である以上、雇い主に伝えたことだろう。


 シロは今まで以上にうやうやしく、しかしどこか興奮した様子で私に接していた。



「わっちはもしやと思っていやしたが、まさか本当に人の身で竜に至っていやしたとは────」



 こいつは本当に忍者なのだろうか? 街中で口が軽すぎる。


 シロいわく白竜の存在について色々考えていたらしい。皇都の珍品を扱う店や甘味処を案内されながら、白竜に対する美辞麗句を聞く。


 途中魔法での気体操作により声が周りに聞こえないように振動を掻き消したりしていたのだが、敬愛する相手の手をそのように煩わせて申し訳なくないのだろうか?


 皇都での日々は瞬く間に終わり、私は帰路についた。


 道中は何もなかった。


 シロは存在が鬱陶しくなったため、待たれないように鱗を一枚生成して渡しておいた。うまく解釈してくれることだろう。


 戻った私は赤竜様に尋ねていた。



「赤竜様は私に大人しくして欲しいですか?」


「そんなことはない。私はリアンヌが自由にしてくれる方がずっといいと思っている」


「ありがとうございます」



 言質は容易く取れた。

 そんなものはなくてもいいのだが、あるに越したことはない。


 こうして私にはまた変わり映えのない毎日が戻ってきた。








―――――――――――――――――――――――――――





「アマト、君のことが当時はわからなかったけれど、今ならわかるよ」


「そうかアルフレッド、だが俺は君のことを苦々しく思ってる」


「言うね」


「言うさ」



 友は皮肉げにそんな言葉を返してくる。



「先人としてアドバイスはないのかな?」


「ない、と言いたいところだが一つだけ。惚れた弱みをいつまでも晒し続けないことだ」


「それはどう言う意味────」


「自分で考えろ」



 にべもなくそう返され会話を打ち切られる。


 自覚はある。僕は大概彼女に甘い。けれどもそうしたいのだから仕方がない。


 できるだけ彼女には幸せでいて欲しいのだから。

序章終了

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