第4章 初の制裁デコピンの快感
「ぐ、ぐぅ……」
地面に這いつくばったガルバスが、砕けた右手を押さえながら俺を見上げる。
その目には完全な恐怖が宿っていた。
「大丈夫ですか?」
俺は心配そうな声をかけながら、ガルバスに手を差し伸べる。
でも彼は俺の手を見て、さらに怯えた。
「く、来るな……」
「えー、せっかく助けようと思ったのに」
俺は少し寂しそうな表情を作りながら、全く違うことを考えていた。
(まだ足りないなあ。もう少し『教育』してやりたい)
その時、訓練場の入り口から新たな人影が現れた。
「何の騒ぎだ!」
現れたのは、ガルバスよりもさらに威圧的な中年男性。
鎧の装飾から見て、相当な地位の人らしい。
「あ、副団長……」
周りの騎士団員たちが慌てて敬礼する。
「団長、どうされたのですか!」
副団長がガルバスの無様な姿を見て眉をひそめる。
「そ、それは……こいつが……」
ガルバスが震え声で俺を指す。
副団長の視線が俺に向けられた。
「君が何をしたのか知らないが、騎士団長に暴力を振るうとは何事だ!」
「暴力? そんな……正当防衛ですよ」
俺は困惑した表情を作る。
でも内心では、新しい『獲物』の登場を歓迎していた。
(副団長か。こっちの方が面白そうだな)
「正当防衛だと? 笑わせるな!」
副団長が剣を抜く。
その刃が夕日を反射してギラリと光った。
「騎士団長に手を出した罪は重い。覚悟しろ!」
「ちょっと待ってください! 話し合いで……」
だが副団長は聞く耳を持たなかった。
剣を振り上げて俺に斬りかかってくる。
(やれやれ、この世界の騎士って、みんなこんな感じなのかな)
俺は軽やかに後ろに飛び退く。
剣が空を切った。
「逃げるな!」
副団長が追いかけてくる。
その顔は怒りで歪んでいた。
「仕方ないなあ……」
俺はため息をつきながら、右手の人差し指を構える。
今度は、少し出力を上げてみよう。
パチンッ!
デコピンが副団長の剣に命中した瞬間、剣が完全に消し飛んだ。
粉末状になって風に舞い散る。
「な……何だと……」
副団長が呆然と、何もなくなった右手を見つめる。
「あ、また剣を壊しちゃった。ごめんなさい」
俺は申し訳なさそうに頭を下げる。
でも実際は、副団長の混乱した表情を楽しんでいた。
(いい顔してるなあ。理解が追いつかない時の、あの間抜けな表情)
「そ、そんな馬鹿な……俺の剣が……」
俺は副団長に近づく。
彼は俺を見て、本能的に危険を感じ取ったようだ。
「き、貴様……何者だ……」
「ただの転生者ですよ。スキルはデコピンって言うんですけど」
「デコピン? あれが?」
副団長の声が震えている。
「そうです。でも、なんか威力が思ったより強くて……」
俺は困ったように頭を掻く。
だが内心では、副団長の恐怖を味わっていた。
(そう、その表情だよ。恐怖で顔が青ざめる瞬間が一番美しい)
俺はニッコリと笑いかける。
その笑顔を見て、副団長が一歩後退した。
「あ、あの……すまなかった……」
「え?」
「さっきは……失礼なことを言って……」
副団長が頭を下げる。
その屈辱的な姿を見て、俺の心が躍った。
(権力者が謝る姿って、本当に最高だな)
「いえいえ、気にしないでください。でも……」
俺は少し真面目な表情になる。
「この騎士団、ちょっと問題があるんじゃないですか?」
「問題?」
「ティナちゃんをいじめてたり、女性に無理やり……」
俺がチラリとガルバスを見ると、彼が震え上がった。
「そ、それは……」
副団長が言葉に詰まる。
「みんなが見てるんですよ。騎士団の評判に関わりませんか?」
俺の言葉に、周りの騎士団員たちがざわめく。
「わ、分かった……気をつけます……」
副団長が再び頭を下げる。
その様子を見て、俺は満足そうに頷いた。
(いいぞ、その調子だ。もっと屈服しろ)
「ありがとうございます。それと、ティナちゃんのことも……」
「も、もちろん! 彼女にも謝罪します!」
副団長が慌ててティナの方を向く。
「ティナ君、すまなかった!」
「あ……はい……」
ティナが戸惑ったような顔をする。
だが俺には分かる。
彼女は内心で、この状況を楽しんでいるんだ。
(この子も、権力者が謝る姿を見るのが好きなのかな)
「よし、じゃあこれで解決だね」
俺は両手をパンと叩く。
「みなさん、お疲れ様でした」
騎士団員たちが慌てて敬礼する。
もう誰も俺に逆らおうとはしなかった。
「レイジ様……」
ティナが俺に近づく。
その目には、明らかに今までとは違う光が宿っていた。
「ありがとうございました。まさかここまで……」
「いやいや、当たり前のことをしただけだよ」
俺は謙遜する。
だが実際は、ティナの反応を観察していた。
(この子、俺の『実力』を見て、さらに興味を持ったな)
「レイジ様は……本当にすごい方なんですね」
その言葉に、微妙な意味が込められているのを俺は感じ取った。
「そんなことないって。ただのデコピンだよ」
「ただの……デコピン」
ティナが俺の指先を見つめる。
その視線が、なんだか熱っぽい。
(面白い反応だな。恐怖じゃなくて、むしろ……憧れ?)
夕日が完全に沈み、訓練場に夜の帳が降りてきた。
「そろそろ宿を探さないと」
「あ、それでしたら私がご案内します!」
ティナが即座に提案する。
その積極性に、俺は内心でニヤリとした。
(ほう、積極的だね。何か企んでるのかな?)
「ありがとう。助かるよ」
俺がそう答えると、ティナの顔が嬉しそうに輝いた。
だがその輝きの奥に、何か別の感情が隠されているのを俺は見逃さなかった。
(この子と一緒にいると、退屈しなさそうだな)
二人は並んで訓練場を後にする。
後ろでは、ガルバスと副団長が、まだ俺の恐怖に震えていた。