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第3章 ガルバスの本性露呈

「死ね、ガキが!」


 ガルバスの剣が俺の頭上に振り下ろされる。

 刃が空気を切り裂く音が耳をつんざく中、俺は冷静にその軌道を見つめていた。


「うわっ!」


 慌てたフリをして横に飛び退く。

 剣が地面に激突して火花が散った。


「逃げるのか、腰抜け!」


 ガルバスが再び剣を構える。

 その顔は怒りで真っ赤に染まっている。


「待ってください! なんで俺が襲われなきゃいけないんですか!」


 俺は両手を上げて必死のフリをする。

 でも内心では、全く違うことを考えていた。


(いいぞいいぞ。その怒りに狂った顔、最高だな)


「生意気な口を利いたからだ! 騎士団長様に逆らうとどうなるか、身をもって知れ!」


 ガルバスが再び斬りかかってくる。

 今度は本気だ。


「仕方ない……」


 俺はため息をつきながら、右手の人差し指を軽く構える。


(出力は……そうだな、痛みを存分に味わってもらおう)


 パチンッ!


 軽やかな音と共に、俺のデコピンがガルバスの剣に命中した。


 瞬間、剣が木っ端微塵に砕け散る。

 破片が宙に舞い散る中、ガルバスが呆然と柄だけになった剣を見つめていた。


「な……何だと……?」

「あ、ごめん。剣壊しちゃった」


 俺は申し訳なさそうな顔をする。

 でも実際は、ガルバスの困惑した表情を楽しんでいた。


(そうそう、その顔だよ。理解が追いつかない時の間抜けな表情)


「そ、そんな馬鹿な……俺の剣が……」


 ガルバスがよろめく。

 周りの騎士団員たちもざわめき始めた。


「団長の剣が一撃で……」

「あいつ、何者だ?」


 だが俺は、まだ満足してなかった。


(剣を壊しただけじゃつまらない。もっと『楽しませて』もらおうか)


「大丈夫ですか?」


 俺はガルバスに近づく。

 その瞬間、ガルバスが拳を振り上げた。


「この化け物が!」


 だが拳が俺に届く前に、俺は再びデコピンを放つ。


 パチンッ!


 今度はガルバスの拳に命中。

 骨が砕ける音が響いて、ガルバスが絶叫した。


「ギャアアアアア!」


 ガルバスが右手を押さえてうずくまる。

 指の骨が完全に砕けているのが見て取れた。


「あ、やりすぎちゃった……」


 俺は慌てたような顔をするが、内心では興奮が止まらない。


(いい悲鳴だなあ。もっと聞かせてよ)


「て、手が……手がぁ……」


 ガルバスが涙を流しながら呻いている。

 その姿を見て、俺の中の何かが満たされていく。


「大丈夫、大丈夫。病院に行けば治るよ」


 優しい声をかけながら、俺は今度はガルバスの左足に狙いを定める。


パチンッ!


 今度は微出力。

 足首を軽く捻挫させる程度の威力だ。


「うがああああ!」


 だがガルバスには、それでも十分な恐怖だった。

 俺の指先を見ただけで全身を震わせる。


「や、やめろ……やめてくれ……」

「えー? さっきまで俺を殺そうとしてたのに?」


 俺はニッコリと笑いかける。

 その笑顔は表面上は困ったような苦笑いだけど、目の奥だけは違っていた。


「す、すまなかった……許してくれ……」


 ガルバスが土下座する。

 その屈辱的な姿を見て、俺の心が躍った。


(あー、権力者が這いつくばる姿って、なんでこんなに気持ちいいんだろう)


「うーん、あの子にひどいこと言ってたよね?」


 俺はティナの方を見る。

 彼女は俺の行動を、まるで品定めするような目で観察していた。


「レイジ様……」


 その呼び方に、微妙な甘さと計算された親しみやすさが込められている。


(この子、俺の本性に気づいてるな。でも怖がってない。むしろ……興味を持ってる?)


「ティナちゃん、この人に何かされた?」

「その……夜、部屋に来いって……」


 ティナが恥ずかしそうに俯く。

 完璧な演技だ。


「なるほど」


 俺はガルバスを見下ろす。

 彼はもう完全に戦意を失っていた。


「ガルバスさん、それって問題じゃない?」

「す、すまない……もうしない……」

「本当に?」


 俺が指先を向けると、ガルバスが震え上がる。


「ほ、本当だ!もう二度と!」

「よし、じゃあ許してあげよう」


 俺は満足そうに頷く。

 だが実際は、まだまだ物足りなかった。


(もっと痛めつけたいけど、周りに人がいるからな。今日はこの程度にしておこう)


「みなさん、すみませんでした」


 俺は周りの騎士団員たちに頭を下げる。

 彼らは俺を見る目が完全に変わっていた。


「あ、あの……あなたは一体……」

「ただの転生者です。スキルはデコピンって言うんですけど」

「デコピン? あれが?」


 騎士団員たちがざわめく。

 でも誰も俺に逆らおうとはしなかった。


「ティナちゃん、大丈夫?」

「はい……ありがとうございました、レイジ様」


 ティナが俺に近づく。

 その時、彼女の唇がほんの少しだけ上がったのを俺は見逃さなかった。


(やっぱりこの子、普通じゃないな。面白い)


「よかった。君みたいないい子がいじめられてるのは見てられないよ」

「レイジ様は……優しいんですね」


 その言葉に、微妙な意味が込められているのを俺は感じ取った。


「そんなことないよ。当たり前のことをしただけだ」


 俺とティナが見つめ合う。

 その瞬間、互いに相手の『本質』を感じ取っていた。


(この子も俺と同じか……これは楽しくなりそうだ)


 夕日が訓練場を赤く染める中、俺たちの「運命的な出会い」は静かに幕を閉じた。


 だが実際は、これは二人の『演技合戦』の始まりに過ぎなかった。

 

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