真の開店
第四章:焼き芋商会、真の開店準備編
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◆ 港町の朝は、昨日より少しだけ温かい
「焼き芋って、昨日より今日の方が売れるような気がしますわね」
潮風と魚の香りに混ざって、ほんのり甘い匂いが港町に漂う。
ヴァネッサは釜の前でそっと炭をならし、湯気の立つ芋をひとつ持ち上げた。
「焦げ目よし、香りよし……さて、味は――」
「ちょっと待ったァアアアア!!」
突如、頭の中に突き刺さる声。
(ミナ:その芋、カットしてからハニーバター塗って焼き直した方がバズる!間違いない!!)
「……あなた、口出しは控えると言いませんでしたか?」
(ミナ:これは提案だから!提案!だって今の時代、芋には“物語”が必要なんだよ!“焼かれた運命、皮一枚の境界線”とか!)
「それを“物語”とは呼びませんのよ!」
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◆ 父、再び看板と向き合う
「芋の香りは、愛の残り火」
「……父様、これ、昨日の“焦げても恋は焦げない”より意味が薄いですわよ」
「いや、これは昨晩の詩集“焼き芋と失恋の交差点”からの引用でね……」
「父様、それって誰に向けた詩なんですの?」
「……昔、芋を分けた旅芸人がいてな」
「もう聞かなくて結構ですわ!!」
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◆ 弟レオン、がんばる
「姉上! チラシを100枚配ってまいりました!」
「まあ、それはすごいですわ!ありがとう、レオン」
「……ただ、風で全部飛ばされました」
「早く回収してきなさいよぉぉぉ!!」
「でも……でもその中の1枚、なぜか市場のおじさんが帽子に貼ってました!」
「それは回収してはいけませんのよ!」
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◆ 母、味を極め始める
「今日の芋は、“炎の三段階焼き”よ。外はパリ、中は蜜、芯に魂」
「……母様、それは何度焼いてらっしゃるのです?」
「五回。最後に“煙だけで蒸す”」
「ええと……それ、まだ食べ物なんですの……?」
「密林では、芋は語る。焼きすぎた芋は“まだ足りぬ”と言う」
「母様、それたぶん、声じゃなくて“炭化音”ですわ!!」
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◆ だが、客が来る
「おっ、この焼き芋、昨日のより香ばしいな!」
「ほぉ~、この焦げの加減……悪くない!」
「あの猿が焼いてんの? やっぱすげぇな!」
港町の漁師たちや子どもたちが、少しずつ屋台に顔を出すようになっていた。
確かに、地味な焼き芋だが――
火を囲むその場所には、奇妙な居心地の良さがあった。
「……一人、二人と来てくださるだけでも、なんだか温まりますわね」
(ミナ:そうそう、それが推しの力よ。推し芋……いや、なんでもない)
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◆ 夜の終わり、静かな言葉
「今日も、少しずつ、歩めましたわね」
ヴァネッサは、今日の売上を記した帳簿を閉じてそっとつぶやいた。
「まだ“貴族”とは程遠いけれど、火を囲むこの時間が、何より好きですの」
(ミナ:うん……でも、いずれまた“表舞台”に返り咲く日、来ると思うよ?)
「……できればその時は、オタ芸は封印していただけると嬉しいですわね」
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次回予告:第五章「猿、誘拐される」
“芋焼きの要”、猿のシモンが消えた!?
犯人は?目的は?――まさかの“屋台戦争”勃発!?
港町の裏通りで、令嬢と猿の奪還劇が始まる!