焼き芋よりクセが強い
お待たせしました!
それではじっくり描く再構成版――
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第二章:焼き芋よりも家族はクセが強い
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◆ 港町の朝は、しょっぱい
目を覚ましたとき、ヴァネッサの顔にはイワシのにおいが漂っていた。
「……また隣の魚干し場が風下に……」
彼女が寝起きに嗅ぐには少々塩分の強すぎる空気だった。
ここはカラメール港町の外れ、廃屋同然の貸し小屋――名ばかりの“新・リュミエール邸”である。
ドアのようなものはあるが鍵はかからず、壁の隙間から朝日とともに潮風と鳩が入ってくる。
「……野生のリゾートと言えなくもありませんわね」
(ミナ:どこがだよ!!)
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◆ 01. 母・クラリッサ ~焚き火とバナナと密林の女~
ヴァネッサが芋の皮をむいていると、隣の部屋――もとい板の仕切りの向こうから、「ゴウッ」という焚き火音が聞こえた。
「火は生き物よ。なまぬるい温度で芋を焼くなんて、それはもう“殺意”の低さよ」
そう言い放ち、全身に前掛けを巻いた女が現れた。
母――クラリッサ・リュミエール。元・公爵夫人。今・焚き火職人。気合で釜を熱する系母親。
「密林では、火の温度でヒトの命が決まるの。薪の組み方一つで“仲間”か“食糧”かが変わるのよ」
「……母様、わたくし、まだ“食糧”扱いはされたことございませんわよね?」
「ないわよ? でも安心はできないわね。今夜の釜次第よ」
この母、豪胆で逞しく情に厚いが、時折そのスケールが地球じゃない。
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◆ 02. 父・アルフォンス ~ポエムに逃げた男~
「ヴァネッサ、火加減には気をつけるんだ。“芋が語る言葉”を聴いてあげなさい」
物陰からふわりと現れたのは父、アルフォンス・リュミエール。
元・王都の貴族社交の華。今・自称“芋詩人”。
「父様、おはようございます。それは今朝の詩ですの?」
「うむ。“焼け焦げた芋の声に、遠き日の父を想う”。三行詩だ」
「……わたくし、その芋の声がどんな音だったか気になりますわ」
「叫んでいた。“熱い”と」
(ミナ:それただの炭化やろ!!)
父は、没落後もしれっと貴族風を貫くが、実際はすぐ腰が痛くなるので働かない。
だが、夜になると港の子どもたちに詩を語っては芋を分け与え、妙に人気がある。
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◆ 03. 弟・レオン ~元兄であり、今は転ぶ係~
「姉上えぇぇぇぇええぇえ!!また看板が風で飛びましたああ!!」
家の裏から叫びながら走ってきたのは、末っ子――レオン・リュミエール。
年はヴァネッサの2つ下。“元・長男”のはずが、兄としての威厳を失い“弟”へ降格した過去を持つ。
【兄降格事件ファイル】
・議会で緊張しすぎて本物の椅子ではなく演台に座る
・猫の誕生日と婚約返答が被って“猫”を優先
・姉のドレスが似合いすぎて家族が一瞬困惑
「姉上ぇ……その……焼き芋の看板、“ほんのり蜜のあなたへ”って……あれ、恥ずかしすぎません?」
「父様が書きましたのよ。“芋で口説く詩人”の作品ですわ」
「……僕、この家族で一番まともかもしれない……(涙)」
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◆ 04. 家族、それぞれの“スタートライン”
夕方。
薪の香りが町にしみ始める頃、ヴァネッサは小さな屋台の前で、今日の一言を書き留めた。
「“芋を焼く手があるかぎり、わたくしは貴族ですの”」
たとえ品位を失っても。
王都を追われ、芋で生きるとしても。
この家族と――この芋と――もう一度、人生を焼き直してみせる。
(ミナ:いやでもさ、次の一手は絶対“萌え芋ステッカー”だって!ほら、擬人化したら「芋ジャック」!)
「静かに。今は……この火と、家族の匂いに、集中しておりますの」
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次回予告:第三章「屋台はじめました~売れない、燃える、猿が暴れる~」
いよいよ屋台、始動!
でも売れない!魚粉に負ける!バナナと芋がケンカする!?
そして猿が回す焼き台に、港町はざわつく――!?
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