第7話「カリスマ社員、爆誕。知らぬ間に社内の伝説になってました」
朝――
「今日こそ、“なんかすごいやつ”になりてえ……!」
俺は願いを込めて辞書をめくる。ページが止まったのは、“カ”の項目。
(……カリスマ。これだ!)
「カリスマ!」
魔法発動。何かが体の奥からブワッと湧き出してくる感覚。髪は自然とセットされ、目に力が宿り、姿勢は完璧な直立。
鏡に映った俺は、明らかにリーダーの風格があった。
会社に着くと――
「おはようございます、大山さん!」
「今日もシャープですね! メガネが冴えてます!」
「えっ、さっき大山さんに会釈された!? 今日もう帰っていいかな!?」
(……やばい、完全に“神格化”されてる)
部署内の空気が変わっていた。俺が歩くと人が道を開け、書類を持って近づくと全員が自主的に直立。
書類を出すときも両手で捧げ持たれる始末。
(カリスマってそういう意味じゃないと思うんだけど……)
昼休み、社内の休憩スペースで、同僚の佐倉さんがジュース片手に話しかけてくる。
「ねえ大山くん、最近すごいね」
「えっ、な、何がです?」
「新人なのに、昨日部長に呼ばれて会話してたって聞いたし、今日なんて課長が“大山くんに見習え!”って部下叱ってたよ」
「た、たまたまですって。俺なんて、ただの……あれです、地味な無職童──いや、新入社員ですよ」
「ふーん……まあ、悪い気はしないけどね。頼りになる人が増えるのは」
笑って缶ジュースを差し出してくる佐倉さん。
全く、魔法のことなんて一ミリも疑ってない。俺が急成長したと信じている。なんて健気なんだ。
そしてそのとき、背後から聞き慣れない低音ボイスが。
「君が……大山くんかね?」
振り返ると、社長だった。
「最近、“すごい新人が入った”と噂でね。ちょっと顔を見に来たんだ」
緊張で胃がキリキリし始めたところに、社長がボソッと続ける。
「……実はうちの娘がね、君のことを知って会ってみたいと言っててね」
「えっ?」
「病弱であまり外出できない子なんだが……珍しく興味を持っている。時間が合えば、一度顔を出してやってくれないか」
(きた……!! これは……完全に、ヒロインフラグ……!!)
カリスマ効果で人生が想定外に好転し始めた。
ただし、俺はまだ気づいていなかった。この魔法、24時間経つとキレイに解けるということに――。