第4話「採用連絡と、はじめての社畜覚悟」
面接から1週間後、俺はとうとう電話を受け取った。
「もしもし、大山誠司さんでしょうか?」
電話の向こうから、先日面接を担当してくれた人事部長の声が響く。
「お、お世話になっております。大山です」
「はい、面接の結果についてお話しさせていただきます。まずは、貴殿のご応募に関して、非常に良い評価をいただきました。ご本人様の能力に関して、社内で大変高く評価されており、採用を決定いたしました」
「えっ、ええっ!? 本当に!? ありがとうございます!」
俺は声が高くなり、うっかり盛大に叫んでしまった。まるで信じられない。
だって、正直なところ、面接中に自分がどれだけアホなこと言ってたか、後になって冷静に考えると恐ろしいくらいだった。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
「それでは、明日からの勤務をお願いする形になります。詳細については、後ほどメールにて送付させていただきますので、確認していただけますでしょうか」
「了解しました!必ず確認いたします!」
電話を切った後、俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
「本当に採用されたのか?」
何度も確認したくなって、スマホの履歴を見返してみる。確かに、あの人事部長の名前と番号が残っている。
俺は無意識に拳を突き上げる。
「よっしゃあああああ!!!」
あまりにも喜びすぎて、部屋の中を走り回ってしまった。まさか、俺のような30歳無職童貞が、こんなにスムーズに就職できるなんて。
少し前まで、自己紹介すらままならなかった自分を思い返すと、なんだか信じられない気分だ。
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翌日、仕事初日。
朝、目を覚ますと、鏡の前で自分の顔を見た瞬間に、自然と笑みがこぼれる。
「イケメンの力、改めてありがてぇ……」
イケメン状態、そして有能状態。昨日から引き続き、魔法の力が効果を発揮している。
「さて、今日はどんな仕事が待ってるんだろう?」
俺はスーツに着替え、早速出社準備を整える。
職場に到着すると、社内の雰囲気は意外と落ち着いていて、アットホームな感じだ。
おそらく、少人数だからか、社員同士の距離も近い。
まずは人事担当者に案内され、デスクに着席。
そこで、直属の上司になるという課長と顔を合わせる。
「お疲れ様です、大山さん。今日から一緒に働くことになりました、課長の村田です。よろしくお願いします」
「お疲れ様です、よろしくお願いします!」
魔法がかかっているおかげで、いきなりの初対面でも、堂々と挨拶できる自分がいた。
「では、まずは会社のシステムを覚えていただきますね」
村田課長は、サラリと説明を始めた。
最初の業務は、エクセルの使い方や社内システムへのログイン手順の確認だった。これなら、前職で少しだけ経験したことがある内容だ。
俺は有能魔法を使い、どんどん仕事を覚えていく。エクセルも簡単にこなせ、電話応対もスムーズ。メールの返信も自信を持って書けるようになる。
ただ、ひとつ問題があった。
「……あれ? これ、俺が思ってたより仕事が多くない?」
もしかして、社内の皆が自分の仕事に集中しているせいか、俺の担当している業務がめちゃくちゃ楽に思えてきた。
確かに、無能の頃と比べると、何をしてもスムーズに進んでいく。ただ、忙しいオフィスの中で浮いているような気がして、逆に居心地が悪い。
「……まあ、初日だからな。これからだよな」
その後も、朝から晩まで、マジで順調に進んでいく。
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帰り際、村田課長に声をかけられた。
「大山君、今日はお疲れ様。君、結構有能だね?」
俺はにっこりと笑う。
「ありがとうございます!すぐに戦力になれるよう、頑張ります!」
「うん、期待してるよ」
その瞬間、周りの社員たちが驚いたようにこちらを見ていることに気づく。
「あれ? なんか、俺、もしかして目立ってる?」
どうやら、初日の俺は、社内の目立ち方が尋常じゃなかったらしい。おそらく「有能」という魔法効果のおかげだろう。
でも、これでいいのか?
こんなに目立ってしまって、本当に俺が務まるのか──?
その不安とともに、俺は会社を後にした。