第3話「一次面接、緊張と有能とバグった敬語」
朝、目を覚ますと――
鏡に映る自分が、どこか別人のようだ。
イケメン状態が発動している。
昨晩、辞書を開いて「イケメン」って言ったおかげで、効果は24時間。
朝、魔法の力がかかると、見た目は確実にレベルアップする。
体格も締まっているし、顔のラインもシャープだ。さすが魔法、恐ろしい。
俺はベッドから跳ね起き、鏡に映る自分に満足しながらつぶやく。
「これで面接も怖くないな……」
いや、実際はものすごく怖い。30歳無職童貞が面接なんて、緊張しまくるに決まっている。
でも、イケメンだし、今日は「有能」魔法も使えるから大丈夫だ。
辞書を開く。ランダムでページをめくり、目に入った単語を確認。
「有能……!」
バシュッ!
【効果発動】
あらゆる能力が一時的に「有能」化する。
タイピング速度、プレゼン能力、思考の回転速度、敬語の使い方──全てにおいてレベルアップだ。
「よし、行くぞ」
⸻
面接の場所に到着。
都内の小さなオフィスビル。従業員15人ほどの規模だ。
受付を済ませ、待合室に案内される。小さな企業だけに、なんだか肩肘を張らずに済む雰囲気。
そして、面接室に呼ばれる。
「大山誠司さん、ですね? 本日はよろしくお願いいたします」
面接官は3人。人事部長、課長、社長──みんな、それぞれ緊張した面持ちで俺を見つめる。
心の声(うわ、緊張する! どうしよう、言いたいこと全部忘れた!)
だが、魔法の効果が働き、口から出る言葉がスラスラ出る。
「よろしくお願いいたします。大山誠司、30歳です」
その瞬間、社長がペンを持つ手を一瞬止めた。
「30歳ですか……」
面接官が一斉にこっちを見てくる。だが、俺は平然と答える。
「はい、30歳です。今まで色々な経験をしてきたので、その知識を活かして貢献できればと思います」
その後も、質問が続く。
「志望動機を教えてください」
俺は、魔法「有能」の力を最大限に使って、スラスラと答えた。
「貴社の取り組み方、特に顧客対応の丁寧さに共感しています。少人数での柔軟な対応が可能な環境でこそ、私は自分の強みを発揮できると考え、志望させていただきました」
面接官の表情が変わった。
「ほぅ、貴社の特徴をよくご存知ですね」
「あ、ありがとうございます……」
(なんで俺、こんなに言葉が出るんだ?)
⸻
次に「特技やスキル」を聞かれる。
「特技は何ですか?」
俺は、瞬時に頭を働かせる。
「特技はお箸を使うことです。お箸で豆を3粒同時に掴めるという特技がありまして、これは集中力と手先の器用さを示す一つの証拠だと思います」
面接官たちが固まる。
「え……お箸で、3粒?」
「はい、実際にやってみますか?」
(あれ? なんでこんなこと言ってるんだろう……)
社長が少し動揺しながらも、ボールペンでメモを取っている。
「……そうですね、手先が器用なのは仕事にも大事なスキルですからね」
俺、いったい何を言ってるんだろう。
⸻
面接の終わり際、最後の質問が来た。
「入社後、どんな目標を持っていますか?」
「まずは実務を通して、御社の業務全体を理解し、その中で結果を出していきます。特に貴社のチームリーダーとしての立場で成果を挙げ、5年後には新規事業部でプロジェクト推進役として活動できればと考えています」
社長、課長、人事部長の3人が驚きの表情を浮かべた。
「……なるほど、すごいですね。そんな意欲のある方、久しぶりに見ました」
「(ちょっと待って、なんで俺がこんなこと言えてるんだ?)」
⸻
面接終了後、俺は無事に面接室を出る。
廊下を歩く足音が、少しばかり重く感じた。
「はぁ~、緊張した~」
その後、1週間以内に連絡が来るという。
おそらく結果は良いものになるだろう。
そして、社内で緊急会議が開かれる──
「なんでこんな有能な人が、ウチに来たのか分からない」