第2話「魔法と履歴書と有能(仮)」
朝起きたら、顔がいい。
なぜなら昨日、「イケメン」って言ったからだ。効果は24時間。あとたぶん6時間くらい残ってる。
鏡を見ながら、ふと思う。
「このまま外歩くだけじゃ、もったいなくね?」
俺は30歳、無職、童貞。
いや、今は30歳・無職・イケメン魔法使い(初心者)。
このまま引きこもってたら、童貞だけが残る。魔法使い引退も時間の問題だ。
「よし、仕事探そう」
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スマホで求人サイトを眺める。
「未経験OK」「正社員登用あり」「人と話すのが好きな方歓迎」
いや無理だろ。こちとら会話スキルは“はい”と“すいません”の2択だぞ。
だが、ここで魔法だ。
辞書を開く。ランダムに開いて──
「……お、“ゆう”のページ!」
あった。有能。
社会人にとって最高のステータス。こいつを発動すれば、どんな面接でも無双できる!
「……有能!」
──バシュッ!
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【効果発動】
※一定時間、あらゆる能力が“有能”化されます。
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その瞬間、脳内に謎のフォルダが開かれる感覚。
タイピング速度UP、プレゼン能力UP、マルチタスク力UP、突然敬語が自然に出るようになる。
「このプロジェクトにおけるスコープはですね、まずKPIベースで──」
「ちょっ、なに喋ってんの俺!? 聞いたことない単語ばっか!」
完全にテンションも知能も別人モード。
しかも早口すぎて自分でも何言ってるか分からない。
副作用:性格が面倒くさいやつになる
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スーツに着替えようと辞書を開く。
「……頼む、今度こそ“スーツ”出てくれ!」
ページをめくる。めくる。……止まった。
「スイッチ」
「うわっまた間違え──」
バシュッ!!!
次の瞬間、部屋の電気、テレビ、電子レンジ、炊飯器、全部のスイッチがONになる。
「ギャーーッ!? 熱っ!米炊くな今!」
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気を取り直して、ようやくスーツで出発。
コンビニで履歴書を買って、公園で書こうとベンチに座る。
が、問題がひとつ。
「資格……特技……空欄が多すぎる……」
そこでまた辞書を開く。
「なんか書けそうな単語……“スキル”!」
バシュッ!!
【効果発動:スキル獲得「お箸を完璧に使えるようになる」】
「いらねぇぇぇぇ!!!」
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30分後、俺は履歴書にこう書いた。
特技:お箸で豆を3粒同時に掴める
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それでも、面接の予約は取れた。
1週間後、都内某所の小さな企業。初面接だ。
俺の社会復帰は、果たして成功するのか。
辞書の魔法と、30歳童貞の執念が試される時が来た――!
……いや、たぶんまた何か起きる。