東扇島、東公園
17:10
地下から登ってきたなら、そこは本土から離れた東扇島だ。埋立地には違いないが……
あたりはすっかり寒い。
足の痛みや、アドレナリンみたいなものが脳内で分泌されているのにも関わらず、
この時間の海辺の寒さは肌を指すようだ。
地下を上がったら左折。あとは、真っ直ぐ歩くだけだ。
17:30
真っ暗な空に、波の音が聞こえる。
でも怖がることはない。足元に丁寧に設置された街灯のおかげで、海に落ちることはまずないだろう。
そして、誰もいない。
たまに釣り人はいる。そして、音楽フェスが開催されることもあり、その日は人がたくさんいるが、
そうでないなら、こんな場所まで来る人は、あまりいない。
それなのに、丁寧すぎるほど足元が照らされているので、とても雰囲気がいいのだ。
浜辺をこえて、誰もいないテラスがある。
それは木と鉄で作られたデッキ的なテラスで、海の向こうに、飛行機が離発着する羽田空港が見える。
聞こえるのは、ひたすら、波の音だけ。
それ以外の雑情報はここにはない。
誰もいないし、そこそこ清潔なテラスなので、遠慮なく、6時間以上歩いて疲労した足を投げ出せばいいだろうし、横になってもいい。
誰も見ていないし、誰かが見ていたからと言って、それが何だというのだ。
私があなたに見せたかったのは、この景色だ。
海の向こうには何もない。
日頃の、憂鬱で不愉快な主語と、ここでは世界が違うのだ。
完璧な自由だ。
ここで川部の今日の活動は終了とする。
流れ解散だ。帰りたい時に、後にあるバス停から川崎駅に行ける。
それまでは気が済むまでここに座っていればいい。
ここから太陽が昇ったら、また、憂鬱で不愉快なあなたや私の1日は始まる。
でも、それが何だというのだ。
あなたは、6時間ここを目指して歩いた。
成し遂げたのだ。
そしてこの完璧な景色、完璧な自由を手にした。
苦労の末に、手にしたのだ。
その事実に比べれば、些細な憂鬱、不安、不愉快など、何だというのだ。
今回は北沢川、目黒川、京浜運河の旅を紹介したが、
今後も気が向いたら、魅力的な川沿いの旅を紹介したいと思う。
川部のススメ、京浜運河。了