王子の婚約者は召喚聖女に感謝する
ちょっとえぐいかもですー(*´∀`*)ゞ
異界より召喚された聖女が死んだ。
そう聞いて、ジョセフィーンは喜んだ。
この世界には瘴気というものがある。
どこからか現れ、地を侵す。草木は朽ち、人々は病に伏す。
そこで召喚されるのが聖女だ。
10年に一度、異界より聖女を召喚する。
聖女は存在するだけで世界を浄化するのだ。
10年に一度なのは、召喚に必要な魔力をためるのにそれだけの年月が必要だから。
そうして、聖女は召喚された。
聖女は存在するだけで世界全体の瘴気に影響する。
しかし、瘴気の現れた土地に近づくほどより影響力はますので、これまでの聖女は各地を巡礼して回るのが常だった。
が、今回の聖女は城にこもり、ドレスや菓子など散々贅沢をし、王子——ジョセフィーンの婚約者だ——を筆頭に男たちを侍らせた。
欲求は止まるところを知らず、聖女の望みのため国庫は切り崩され税はあがった。
進言する忠臣はその職をとかれ、ばかりか不敬であるとして一族の首を晒された。
この辺りまでは、聖女にはべる傲慢で怠惰な、欲望に忠実な王子たちの意もあった。自分たちが過ごしやすいようにと。
望まぬこの世界にお越しいただいた聖女様の御為である、人の心があるならば願いを叶えて差し上げるべきだろう。
ゲラゲラと笑いながらそう言われ、首を刎ねられた忠臣の形相は見ものだった。
そして、一つの宝石が聖女へと贈られた。
王子からの貢物だった。
王子からすれば、聖女の関心をかうための贈り物のひとつ。だが、この世界には不思議な力を持つ石がある。
その石は、魅了の力を持っていた。
そこからは全てが変わった。
もはや彼らを咎め立てするものはなく、喜んで自身を明け渡した。
聖女の為にと、その望むがまま財を捧げ、こびへつらい、父親は娘を犯し、母親は子供の首を刎ねた。
ジョセフィーンもまた、聖女に魅了されていた。
ジョセフィーンたち、王子に侍る男たちの婚約者や恋人は、王城に連れてこられ犬として全裸で飼われていた。四つん這いで城の中をうろつき、犯され、鞭打たれるのが役目である。
ジョセフィーンは心からそれを喜んでいた。
聖女のためなので。
王城にいれば、聖女にまみえることもある。
ある時、聖女が近くを通った。
だから告げたのだ。
聖女が必ずお喜びになるだろう言葉を。
ジョセフィーンはそれを知っていた。
そして、聖女は死んだ。
自害だった。
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ジョセフィーンは、この世界が嫌いだった。
家族に虐げられ、婚約者の王子には蔑まれている。
ジョセフィーンが生かされているのは、産んだ時に死んだ母親が当主の血筋だったので、その血統が必要なだけだ。
特異な髪と目の色を持つ一族で、それがなければ殺され取り替えられていただろう。
王子の婚約者となったのもその血の為で、虐待されみすぼらしいジョセフィーンに王子は不満だった。周囲もそれを咎め立てしなかった。
子を産まされ、殺されるのだろうとジョセフィーンは思っていたし、事実周囲もその気だった。
未だ手を出されていないのは、成人していないからで、それは結婚の体裁を整える為、必要だったから。
そしてついに成人し、直に結婚式、ジョセフィーンがもうすぐ死ねるのかと考えていたその時、
聖女が召喚された。
それからは前述のとおりである。
結婚式はとりやめ、王子は聖女に夢中になった。
王子はジョセフィーンを侮辱することは好きなので、わざわざやってきて、聖女がいかに素晴らしいかジョセフィーンが劣っているか話して聞かせた。
以前には、目の前でジョセフィーンの妹とまぐわって見せたこともあるので、ジョセフィーンは不思議だった。聖女とのそれを見せなくていいのだろうか。
うっかり口に出してしまい、激昂されさんざんに殴られた。
しかしそれで、ジョセフィーンはわかった。
聖女は、この世界を憎んでいる。
ただの放埒ではない。この国を潰そうとしている。
それがわかったのは、聖女は純潔を守っているときいたからだ。
純潔を失えば力を失うからと、聖女が言ったとのことだが嘘だろう。以前には王家に嫁いだ聖女もいるのだ。
ジョセフィーンは、王子と妹のまぐわいを見せられた時、何がしたいのか不思議だった。
彼らは、婚約者であるジョセフィーンを、愛されない者として蔑み笑いたかったのだが、ジョセフィーンは王子の愛を求めていない。
嫌いなものに触れられるなど、耐えられない。
だからジョセフィーンは、聖女の気持ちがわかった。そして感謝した。
この世界を苦しませてくれてありがとう。
ジョセフィーンはこの世界が嫌いだ。
召喚というのがどういう仕組みかジョセフィーンはしらないが、連れてこられたこの世界がきっと聖女は嫌なんだろう。
ジョセフィーンは深く共感した。
そのうちに、魅了の石が聖女に贈られ、ジョセフィーンは犬として召し上げられた。
その事自体も、誰とも知れない男相手に処女を失った事も、ジョセフィーンにはどうでもよかった。
ただ聖女のより近くにいられることがうれしい。
他の女たちもそうだったが、ジョセフィーン一人だけ、本心からそう思っていた。
しかしそんな中、聖女について、ある話を聞いた。
ジョセフィーンは憤った。
生まれて初めてのことである。
到底許せる事ではなかった。許せない、などと思った事も初めてで、ジョセフィーンはとまどった。
必ずこの事を聖女様にお伝えしなければならない。
そして、ジョセフィーンは、これもまた、生まれて初めての満面の笑みを浮かべた。
そうすれば、必ず聖女様にお喜び頂ける!!
そして、ジョセフィーンは機会を逃さず——聖女は、死んだ。
それからが見ものだった。
魅了されている間の全てのことを人々は覚えている。
友人を拷問し仕えるべき君を這いつくばらせ獣に蹂躙させ我が子を犯し殺害し、喜んで鬼畜となったその事を。
人々は発狂した。
聖女が失われた事にも気がまわらないほどに。
王子だけが、聖女の喪失に慟哭した。
彼は自分の行いに悔やむ事などなかったのである。
ジョセフィーンは、聖女に「それ」を言ったことで、その場で切り捨てられそうになったが、聖女が止めたので、生きている。
そして混乱する王城の、屋根に登り、聖女に感謝を捧げていた。
ジョセフィーンが告げたのは、「聖女はただ存在するだけで、瘴気を浄化する」という事だった。
聖女は知らなかったのだ。浄化には、瘴気に汚された土地へ行くことが必要だと思っていた。国が、そう教えていた。
これは、自害を防ぐためである。
これまでにも反抗的な聖女はいて、巡礼を拒否する事があった。
管理者たちはどうかどうかと平伏してお願いする。
聖女は拒否し、見返してやったと満足する。
本当はいるだけでいいのに。
平伏しながら舌を出すのは管理者である。
縛り上げて巡礼に連れ回したり、牢に閉じ込めたりするのは危険だった。人は死のうとすればどうやっても死ねる。
瘴気がある程度落ち着くまで、聖女を失う訳にはいかないのだ。再召喚できるまで10年かかる。
つまり、反抗的な聖女に「存在しているだけでいい」事を知られれば、この世界を滅ぼそうと自死する恐れがあるため、この事は聖女には隠されていたのである。
それを知ったジョセフィーンは、聖女様のために、それを教えた。
そして聖女は、ジョセフィーンの思っていた通り、満面の笑みを浮かべ、感謝した。
そして、死んだ。
ジョセフィーンは遠くの山々をみつめる。
黒く、靄がかかっている。
瘴気だ。
瘴気が落ち着かぬまま、聖女は消えた。
次の召喚まで、この国はもたない。
土地は汚れ、人々は倒れ、滅ぶだろう。
ジョセフィーンもまた、死ぬだろう。
ジョセフィーンはそれが、とてもとても、楽しみでならない。
大晦日になにかいてんだろ〜てなりました(*´∀`*)ゞ
トホホ!!
1/3たくさんご閲覧頂き日刊ジャンル別ランキング1位になってました!スゴイ〜!!ご閲覧評価やご感想本当にありがとうございます!
誤字報告もありがとうございます!こういうとこでよくそういうの見てましたが、こういう感じで頂くのか〜!と感動しました(*´∀`*)