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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
2章_3 敵拠点、潜入計画編
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91話 怪異の恩返し

「さてと……坊やよ、覚えておるかね? 錬力術とは似て非なるワシらの念力とやらを」


「念力……まさか!」


「そうじゃ……溝鼠どぶねずみ、これで決めてやるのじゃ!」


 黒くてブヨブヨした“何か”が少しずつイギョウサマを包んでいく。まるでそれは捕食するかのようで、どんどんその勢いを容赦なく増していく。


「グガガ……ガァ……」


「すごい、イギョウサマの体力を奪えているぞ!」


 驚くべきことに、老婆の念力はイギョウサマにかなり通じているようだ。このままの調子ならきっと勝てる! そうユウヤは確信した。


「よっしゃ、いっけええええええええ!」


「グゴゴ……ガオ……ガ……」


「ヒヒヒ……このまま、とどめを刺してやるぞい!」


 老婆はさらに念力の威力を高める。するとスライムはさらに捕食の勢いを増した。その姿はまるで飢えたライオン、これでもかと言うほどイギョウサマを食べ尽くす。


 だが、老婆の体力も落ちてきた。老爺も慌てて錬力術で老婆の体力を回復させるが、このままではイギョウサマを倒す前に老婆がどうにかなってしまいそうだ。


「こうなったら……やるしかない」


 ユウヤは一呼吸置き、覚悟を決めた。まるでバッターボックスにいるかのように立ち、両手で重いバットを持つかのように強く《《風を握る》》。そして腰を捻り、思いっきり風をフルスイングした。


「遠距離技が効かないならこういう手もあるよなぁ! トルネードリィ・スラッガアアアアアア!」


 ユウヤが風を棒状に固めて圧縮して作ったバットがイギョウサマに炸裂する。物凄い風圧が、気圧が、イギョウサマをかっ飛ばそうとする。


「飛んでいけぇ……空高くなぁ!」


(まさかこの場面で新技を思いつくなんて……しっかりと鍛えれば、鳥岡君はきっと……!)


「さほど時間が経ってないのにその成長っぷり……坊や、きっと世界を救える素晴らしいヒーローになれるぞい……!」


「ば、婆ちゃん……」


「よそ見するでない! ほら、周りをよく観察するのじゃ!」


「……え」


 ユウヤが気付いた時にはもう手遅れだった。あるモノは二本脚で歩く頭がカマキリになったセミ、またあるモノは翼の生えたカバ、そしてまたあるモノはまるで人面犬……無数の”イギョウサマ“がユウヤ達を取り囲んできた。


 悪夢はここで終わりではない。ユウヤの視界に何やら無数の毛のようなものが見える。びっくりしてそちらを見てみると、何とユウヤの片脚から獣のようにもじゃもじゃと毛が生え始めたのだ。


「毛が、毛がオレを包んでいくぞおおおおっ!?」


「坊や! ほら早く逃げなさい、早く! さすれば間に合う、これはイギョウサマの術、離れれば解除される!」


「でも、それじゃ婆ちゃん達が……」


「構わぬ!」


 老婆はユウヤを叱責する。


「侍が侍を倒すように……武道の達人が武道の達人から一本を取るように……ワシらがここで、怪異が怪異を倒すっ!

 だから逃げるのじゃ、逃げは生きぬく手段になり得るのじゃから!」


「……分かりました、ありがとうございます!」


 ユウヤは真銅の車に乗り込み、急いで車を走らせる。

 席に座りながら後ろを振り返ると、老夫婦がイギョウサマ達と戦っていた。車を追いかけようとするイギョウサマ達を、何とか念力で引き止めながらダメージを与え続けている。


 その姿も見えなくなったところで、真銅は不思議そうにユウヤに尋ねてきた。

 

 なぜ、さっき1人で喋ってきたのか……と。どうやら真銅には老夫婦の姿が見えていなかったらしい。それどころか、早く逃げるぞと何度ユウヤに呼びかけても無視していたという。無論、無視していたつもりなど、ユウヤには断じて無い。


「……なんで、また現れたんだろう、あの2人……」


 ユウヤは、あの老夫婦が再び現世に降りてきたことが気になっていた。タイミング的には助太刀してくれたのだろうけど、気になる言葉があった。


『坊や、きっと世界を救える素晴らしいヒーローになれるぞい……!』


 世界を救える……知っているのだろうか、チーム・ウェザーの行いを。だが、世界のヒーローとはかなり大げさな表現である。それとも、今後世界を巻き込んだ大きなことが起こる、という予言なのだろうか?


 ユウヤに生えていた謎の毛はどこかへと消えている。だが、イギョウサマの恐ろしさはとてつもないものであった。このトラウマは、しばらく消えることは無いだろう。


 




 



 

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