75話 強者、ケンジ
カエデは無数の“種”を直線状に撃ち始める。少しでもダメージを与えられてくれ、いや気を引かせてカエデへの攻撃を外してくれ、そう願いながら撃ち続ける。ケンジは平気そうだが、眉間にしわを寄せて癇癪を起こす。
(痛くも痒くもない……だが鬱陶しい……視界が狭まりやがる!)
「フフフッ、その顔、その様子! 実は効いていたりして?」
「……そんなワケあるか、少しは考えやがれサルがああああああ!」
「くおっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
ケンジはカエデの挑発に憤怒しながらもイチカを弾き飛ばした。だが、イチカも空中で体勢を修正し、水泳のターンのように向かいに建てられているアパートを蹴り、ロケットのように再びケンジに向かって飛んでいく。
「ヘヘヘッ、今度はウチの必殺技を見せてやる! このまま地獄へ向かって吹っ飛びな、炉蹴飛ぉぉぉぉ!」
「ハァ……無駄な足掻きだというのに」
ケンジはため息をつくと、足元に落ちてあった石像の破片を拾い上げ、バットを振るうように思いっきりフルスイングした。
「ハハハハハ! どこを狙ってんだ、意味ねぇぞ――」
イチカがケンジを笑ったのも束の間、フルスイングにより生まれた衝撃波はイチカを道路へと叩き落した。そしてそのままズリリリリと道路の上を滑り、しまいには放置されていた石像に激突する。
「グアアッ!」
「どこを狙っている、などとぬかしておいてそのザマか……そうやって人を小馬鹿にする資格があるとでも?」
「……なぁんてな、空を見上げやがれ!」
「そ、蒼穹をだと? ……これは!」
ケンジが上を見上げると、そこには火の玉がズラリと隊列を組むように並んでいたのだ。
「へへへッ、ホウセンカで視界を奪っている間! お前の死界に火の玉を並べておいたのさ! それも太陽に重なるように配置、バレないようにな!」
「わ、我としたことが……」
「さぁさぁ、大地へ降り注げ! 配熱ぁぁぁ!」
火の玉はそれぞれ一斉射撃をするようにケンジに降り注ぐ。
「グッ……! めんどくせぇ……」
「まだまだやるぞ、喰らえええええ!」
ドカドカドカアアアアン! やがて完全に爆炎はケンジを包み込んだ。それを見てイチカは今度こそ勝ちを確信する。
「や、やったか!?」
しかし……
「……間抜けが」
「ウアアアアッ……!」
ケンジはイチカの腹を蹴り上げ、一撃で倒してしまった。
「ウッ……クソ……」
「イ、イチカさん!」
「汝もだ……! いい加減に程度の差を知りやがれ……!」
「キャッ!」
カエデはケンジに殴られ、そのまま腹を抑えてうずくまる。それを見て高笑いしたケンジはカエデの背中を踏みつけ、ゴリゴリと力を入れてこすりつける。それを見てユウヤも我慢できなくなり飛び出そうとするが、サムに妨害されて動けない。
「その手を放しやがれ! もうオレも我慢できねぇ!」
「ノーノー、あの2人がどこまでやれるのか、この先の戦いに備えて知っておくべきだと提案しマース!」
「は? 意味不明なことぬかしてんじゃねぇ! 友達をコケにされて、痛めつけられて! 我慢できるヤツがどこにいる! それにオレは制御できる、聖霊ペガサスの力を!」
「オー……聖霊はそんな甘いヤツらじゃないデスよ? いつかは肉体を、自我を、そして運命を滅ぼそうと企む……邪悪な個体もかなり多いデス」
「あぁ、ならばその運命とやらにすら抗ってやる! チーム・ウェザーに、そしてお前らがたまに言う《《あのお方》》にも、いつか必ず立ち向かうからなああああああ!」
ユウヤは全身にありったけ力を込め、全身からエネルギーを振り絞るようにいきむ。するとだんだんユウヤの体は空中で白い繭に覆われ、やがて翼と尾をこしらえた姿で着地する。
「……それに、既にオレはこの姿を制御できる! 自我を奪われずに、な!」
「す、既にデスって!?」
サムはかなり驚いた様子だ。別にこれはオーバーリアクションなどではない。だが、イチカとカエデを助太刀しようと走っていくユウヤの背中を見て、
「……そうこなくちゃネ」
と呟いた。
イチカとカエデはもうかなり体力を浪費してしまっている。全身に怪我も負い、なんとか立ち上がるのが精一杯だ。それを見てケンジはあざ笑う。
「あの野郎……全く攻撃が通用していないぞ」
「ハイ……正攻法では勝てる見込みが……」
「ククククク、ガッハッハッハッハ! 所詮、これが現実だった、それだけの話だ……!」
「こ、こうなったらウチも切り札を……半分精神乗っ取られるのはゾクゾクするけどな……」
「ほう……どうやらその目にオーラ。フェニックスの力を手に入れたみたいだな」
「へへッ、もうバレてるとはな!」
「聖霊の力を宿した者に対してそうでない者が戦うのはかなりのハンデを負うことになる……そして、我は聖霊を宿さない」
「なら、使って一気に勝たせてもらう……!」
「ククク……それでも我は汝を圧倒する自信がある。なぜなら……我は《《強者》》だからだ……!」