71話 闇を抱えるヒカリ その1
「岩壁、破壊イイイイイイイ!」
「破壊イイイイイイイ!」
「安全確認ヨシ! 準備、ヨオオオオオオオシ!」
「射撃準備、ヨオオオオオオオシ!」
特殊錬力隊は一斉に火器を構え、栄田が作った岩壁を破壊しようと射撃し始めた。
「中から奇襲をかけられるかもしれないいいい! 細心の注意を払えええええええい!」
「ラジャアアアアアアアアアア!」
厚い岩壁がどんどん削られていく。まるでコンクリートをドリルで削っていくように、カフェ突入への準備が進んでいく。
「す、すごいぞおおお! どんどん岩が破壊されていく!」
「が、頑張れ錬力隊ぃぃぃ!」
ギャラリーからは声援が飛び交う。その声は火気の勢いを後押しし、もはや爆発すら起こしてしまいそうだ。
「この錬力銃はぁぁぁぁ! 応援してくれる皆の声を音エネルギーとして利用、射撃のパワーに合わせるぅぅぅ! ラストスパート、解き放てぇぇぇ!」
「ラジャアアアアアアアアアアア!」
ドカドカドカアアアアアアン! 岩壁が派手に破壊されると、椅子や机、インテリアが乱雑に散らかったカフェがあらわになった。中では相変わらず、ヒカリが暴れて叫んでいる。
「一斉に突撃、少女を保護せよぉぉぉぉぉ!」
「ラジャアアアアアアアアアアア!」
隊員たちは一斉に隊列を組んでヒカリに向かっていく。ヒカリは一瞬驚くような仕草を見せたが、すぐさま彼らを腕組みをしながら睨みつける。
「私は、わたしが《《やるべき》》ことをやるだけ!」
「……ん? 今、ヒカリなんて言った?」
ヒカリは隊員たちの目をジッと見たかと思うと異変が起きた。一番先頭に立っていた隊員の足が突然止まったのだ。そして、足元からパキパキと骨が砕けるような音が響く。
「グアアアアアアアアア! 足が! 足があああああ!」
「た、隊長ぉぉぉぉぉ! 何が起こったでありますかあああああ!」
「足があああああ! まるで石に変わって……行……く……」
「た、隊長が! 固まってしまっまたぞおおおお!」
先陣を切っていた隊長はすっかり動かなくなってしまった。言葉も発さず、ピクリとも動かない、ただ立って同じポーズを取り続ける、それはまるで石像のようだ。
「オイ! 石になったぞ! やべぇ、やべぇ!」
「おい、逃げるぞ! うわああああ!」
恐怖のあまり観衆が逃げ出す。が、その攻撃を一部受けてしまっていたのか、もしくはヒカリが攻撃したのか、逃げ出した観衆もどんどん石像へと変化していく。
「イヤアアアア! 何これ、固くなっていくんだけ――」
「うわあああああ! やめろ、やめろ、うわあああああ!」
「ウワアアアアアン! ママー、怖いよぉぉぉぉ――」
「カズちゃん、大丈夫だからね、カズちゃ――」
「な、何だよこれ……」
「ハハハハハハ! 所詮どれだけ武装しても……メドゥーサスカルプチャーの前には手も足も出ない!」
ヒカリは石像となった隊長を押し倒し、何度も踏みつけて粉々に砕いてしまった。あまりに残酷な光景に、隊員たちは思わず固まってしまう。
だが、その中に1人勇気がある者がいた。武器を掲げ、
「うわあああああああああああ!」
と叫びながらヒカリに向かって飛び出したのだ。他の隊員も慌てて止めようとするが、既に間に合わない。ただがむしゃらに走っていくが、その隊員の行動も虚しく、気付けば足元が石のように変わっていた。
隊長が悶絶していた様子からも、足にはかなりの激痛が走っているはずだ。だが、その隊員は粉々になった隊長の方を振り返ると、匍匐前進になりながらもヒカリに向かっていくのをやめない。
「人の命がかかっている中で……仲間をあんなにされて……力に溺れて暴走している少女を目の前にして! 逃げるなんて選択肢がありますかあああああああ!」
「……マスターが言ってた、飛んで火に入る夏の虫ってまさにこのことね」
ヒカリは躊躇することなく、その隊員も、そしてその後ろにいる隊員達を全員、石像へと変えてしまった。
カフェと道路には、合計10体以上の石像が転がるばかりだ。




