表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
1章-1 リサトミ大学編
6/221

4話 筋肉マシマシ、シンプルイズベスト?

 ヒトシは間を置かずユウヤにラリアットを仕掛けてきた。暴走機関車のようなその勢いにユウヤは回避することができずに吹っ飛んでしまった。


「ぐぁぁっ! ただのデブじゃねぇ……!」


「ハハハハ、さらに喰らいやがれ! オラオラオラァ!」


 パンチがユウヤに食らいついていく。ヒトシはただ力に任せデタラメに殴っているように見えるが、一発一発が重く、そして確実にダメージを与えていく。ユウヤには反撃する余裕がなく、腕で体を守ることが精一杯だ。


「おい大丈夫か!? 誰か呼んでくる!」


 アキヒコはユウヤに駆け寄る。


「おい邪魔するんじゃねぇぞゴラ! さもなくばお前も……いや、まずはこのチビをさらにぶん殴るぅ!」


 ヒトシはアキヒコにさえ一瞬怒りの矛先を向けたが、それでもなおユウヤに追撃しようと3歩下がり、突進してくる。続けてユウヤの横っ腹めがけてアッパーを仕掛ける。ヒトシの猛攻に対し、ユウヤはただ攻撃を受け続けることしかできない。

 介入すれば逆にユウヤが攻撃されるだけ、そもそもこのガタイに勝てる自信はない……周りの人はただユウヤの無事を祈るのみであった。タケトシとカエデを除いて。


「いい加減にしろ! “防壁シールディング”!」


 そうタケトシが叫ぶと地面からゴゴゴゴと音を立てて土壁が現れ、ユウヤとヒトシを無理やり引き離した。そして急いで回り込み、ヒトシを何とか羽交い締めにした。


「くそっ、離しやがれゴラァ!」


「させるか、オレも鍛えているんでなぁ! ナメてもらっちゃ困るぜぇ!」


「タケトシ君ナイス! 私もいくよ、“アロエ”!」


 カエデが叫んだ瞬間、柔らかな緑の光がユウヤを優しく包みこんでいく。それに合わせてユウヤの苦しそうな顔も和らぎ、たちまち元気が溢れた。


「ヨーグルト朝食べ忘れたから助かったぁ! ありがと、2人とも」


「ふ、ふざけてる場合じゃないでしょ!」


「皆、一旦逃げてくれ! オレが引き止めているうちに……! ほら、ユウヤ……も!」


 タケトシはヒトシが動けないようにしながら何とか声を絞り出した。


「ま、待ってくれ! せめてオレ以外の皆で逃げて……オレはタケトシを見捨てられない!」


「何だ何だぁ? 友情ごっこのつもりかぁ?それでもオレには勝てないんだけど、なぁ!」


 ヒトシはタケトシを押し返して下っ腹をぶん殴った。錬力術を用いて一時的にではあるが筋肉を増大させているヒトシと1年間鍛え続けたタケトシだが、その軍配は前者に上がった。予想外に重い攻撃でタケトシは思わず地面に叩きつけられた。


「タ、タケトシ!」


「す、すまねぇユウヤ! 負けちまった……グフッ!」


「おいおい……さっきまでの! カッコつけは! やめちゃったのかなぁ!」


「ぐぁっ! ぐはっ! あぁあっ……」


 ヒトシはタケトシを何度も何度も踏みつける。それにはユウヤも流石に怒りを抑えられなかった。


「やめろ……これ以上は許さねぇぞ!」


 ユウヤの周りで突然、風が吹いた。


「ん? 何だ今の風?」


(さっきみたいに、こうすれば……)


 ユウヤは再び力を貯め始めた。目を閉じて意識を集中させると、体の前で小さな渦巻きが浮かんできた。そしてどんどんそれは成長をとげ、運動会の大玉ほどの大きさになった“風の球”を圧縮して投げると、ビュウウウウと音を立てながらヒトシめがけて飛び、見事命中する。


「ぐああっ!」


「や、やったか!?」


 砂煙の中から現れたのは、口元に切り傷を作りながらも仁王立ちしているヒトシだ。ほとんどダメージは与えられていなかったのだ。


「ぜぇ〜んぜん痛くも痒くもねぇ! それに、『やったか』って思った時は大概倒せてねぇのさ、オレも例外でなく!」


「う、嘘だろ……」


「昼で力を使い果たしたのか、まさかそれとも火事場の馬鹿力を発揮できるのはたまにだけか!?」


 ユウヤとタケトシは絶望の淵に叩きつけられた。一方ヒトシはいいマッサージになったと言わんばかりに嘲笑っている。


「ハハハハ! お前はムカつくが笑わせてくれた! 今の技の威力を見る限り、多分まだ追い込まれ足りないようだなぁ、“ホームラン”見せてくれよぉ! さらに大技喰らえ! 長文レス・タアアアアック――」


「ユウ、助けを呼んできたぞ! そこら辺にいた先生だけど、何か服装的に強そうだったからな!」


「喧嘩はやめなさい! “チャコールバインド”!」


 突如現れた不思議な服装の女が錬力術を発動させた。すると錆びた銅色の手錠と足枷の形をした何かがヒトシにまとわりつき、縛り付けた。


「ぐぉああ!? な、なんだこれ、動けねぇ……」


 ヒトシは身動きを取ることができず、そのまま地面に倒れて立ち上がれずにいる。

 女はヒトシに近づき、こんな騒ぎを起こすなと叱り始めた。その服装、声、至近距離での説教……ユウヤはその女の正体にすぐに気がついた。


「さ、さっきの先生!」


「お昼食べて帰ろうと思ったら騒ぎが起きてるものですから。鳥岡君ですね? 授業中寝るわこんなことも起こすわ……ちょっと来なさい」


 周りを見渡すと、大勢の見物客がこちらを見ている。どうやらかなりの騒ぎになっていたらしい。中にはスマホを向けてきている人もいる。きっと動画を撮ってSNSにでも載せるつもりなんだろう。


「聞いてますか、いいからこっちに」


「い、いえ……すみません……」


 タケトシは内心、大変なことになったなとユウヤに同情しながら見守るだけだった。他のサークルのメンバーも皆トボトボと歩くユウヤに同情するような目で見つめていた。


「鳥岡君……錬力術は喧嘩のために存在するものではないんですよ」


「はい……」


「……素晴らしい発明がいつしか命の奪い合いに使われるようになる、そんな過去の歴史を繰り返してはなりま――」


 その時だった。キャンパス中に連続して数十発の雷鳴と爆音が響き渡った。ユウヤは青ざめた。明らかに自然現象ではない、そしてこれは間違いなく不審者の術と同じものだ、と。


(まさか、これって……!)


「鳥岡君、なぜそんな後ろめたそうな顔をしているのですか? ……まさか何かしたのですか?」


「……不審者を追っ払いました。錬力術のすすめⅠっていう講義の――」


「錬力術!? それってまさかあいつらの仕業……!」


「あいつらって?」


「チーム・ウェザーです! 他の大学でも既に被害が出ているんです、ヤツらが襲うのは決まって錬力術をメインの題材とした講義! にも関わらずこれほどまでに集中砲火をするなんて、きっと激怒してるに違いありません!」


「チ、チーム・ウェザーって!」


「鳥岡君、これは特別課題です。一度向かいますよ、アイツらの確認のために!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ