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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
1章-4 決戦・ヒビキ編
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52話 オモイ

「……た、ただいま帰った」

「ただまー、雨でびしょ濡れよ、もう」


「ヒビキ様、ポワソ様。お帰りなさいませ」


 ヒビキとカナはチーム・ウェザーのアジトに帰っていた。と言っても、もはやこの2人にチームに対する忠誠心は残っていないのだが。

 ヒビキにはチーム・ウェザーで活動している間の記憶は全て消えてしまっているので、カナに先導を切って事務所に案内してもらっている。あまり目立つとバレる可能性があるので、横並びで少しでも感付かれないようにする。


「あぁ、それにしてもさぁ。アタイ達、かなりの薄給なのよ。さっさと潰して、普通の会社で働くべきだって」


「働く……? オレ、教養何もないぞ。詰んでるだろこれ」


「大丈夫、大丈夫。その代わりにかなりの体力あるんだし、どこかしら働き口あるって」


「ねぇ、働くってどういうこと……?」


「何言ってるのよ、そりゃちゃんとした会社で……って、アンタはっ!」


 しまった! という顔つきになるカナ。まるで陰口を怖い先生に聞かれたかのような、校則違反が生徒指導に見つかったかのような、そんな顔だ。


「ねぇ、会社って何よ! ヒビキくんここ辞めちゃうの、ねぇ、いかないで、いかないでよ!」


「……ホントに《《重い》》ね、氷室アズハ」


「アンタには関係ない! ……ここを辞めちゃったら、ヒビキくんは死んじゃう! 儚いお花なの、だからアタシが守ってあげなくちゃ……」


 アズハは心配そうな表情でヒビキに駆け寄る。困惑するヒビキの手をギュッと握り、ガッチリと抱擁する。


「アタシがついてる、アタシが守る、アタシがヒビキくんの全てになる! だからいかないで、いったら……同じ部屋で一緒にコールドスリープにかかるからね! 絶対にね!」


「……あぁ、気を使ってくれてありがとう。だけど今日は疲れてるんだ、一日中眠らせてくれ……」


「あぁ、いつもと違うけどこんなヒビキくんも素敵……待っててね、コーヒー入れてあげるから」


「あぁ、すまないな……苦すぎないやつで頼む」


 ヒビキの注文を受けると、アズハは嬉しそうに笑みを浮かべ、かなり厚底のシークレットシューズをカタカタと鳴らしながらルンルンでキッチンへと向かって行った。それを見届けるとヒビキはため息をついた。


「何なんだ、アイツ? 誰なのかほとんど覚えてないけど、何かいちいち重くて執念深そうなヤツだ」


「……あぁ。アンタのこと付け回してるんだよ、アイツ愛が重すぎるんだよな」


「……面倒だ」


 ヒビキはさっさと部屋に戻ろうとカナに告げ、まるで何かから逃げるように歩き出した。

 一方、それとは対照的にアズハのテンションは高い。まるで好きな人からSNSでいいねをもらったかのようだ。


「あぁ……好き好き好き好き好き好き好き! あの雷みたいな声に目、何よりあの全身黒のコーデ、それに、それに……! ……だけど、今日はやっぱり変。もしかして、トリオカユウヤとかいうヤツのせい? そいつにメンタルを打ち砕かれた? だとすれば、ブチ潰すまでよ、クソユウヤ!」


 この世のどこかにある、チーム・ウェザーのアジト。その中で、面倒くさそうなヤツが動き始めていた。ユウヤの首を狙って……



 そんなことはもちろん知るよしもなく、ユウヤは帰りの電車で心地よい夢の中だった。同級生、先輩後輩、他学部の学生皆に祝福され、見たこともない美女に告白される夢だ。

 その上、食堂ではヒーローの特権として大盛りご飯がサービスされているし、購買では人気第一位の菓子パンを半額で買える。

 キャンパスを歩けば黄色い声を浴びるし、大学を出ればインタビューのカメラが待ち構えている。


「むにゃむにゃ……オレもヒーローに、なったんだぁ……むにゃむにゃ」


「ハハハハハ! ユウヤどんな夢見てんだよ! かわいいやっちゃなぁ、ハハハ!」


「もう、ユウヤくんったら!」


「お二人共、夢を覗き見できますが、興味お有りですか?」


「えっ、見たい見たい!」


「おおっ、それは興味ありまくりだな!」


「それじゃ、このボール、見ていてくださいですわ! それぇいっ!」


 ユウヤ達を乗せた電車は、いつもと変わらず動いている。ユウヤ達にとっては第一目標であるヒビキの撃破を達成した後。周りの人間にとっては、いつもと変わらぬ仕事や学校の帰り。


 魔法が日常となってから、もう25年が経った。錬力術は良くも悪くもこの世界を大きく変えたし、それ以前の暮らしはもう過去のものだ。


 この発見がいいものなのか、悪いものなのか、それは正直意見は分かれるだろう。

 だけど、それでも変わらないことがある。それは、地球が廻り続けている、ということだ。


 それぞれの思いが、歯車となりながら。




 第1章 完――

 





 


 

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