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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
1章-4 決戦・ヒビキ編
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51話 かえる場所

「……なら、その洗脳してたヤツが一体誰なのか、口を割って貰おうか!」


 戦意喪失しようと関係なく、ユウヤはヒビキを責め立てる。だが、ヒビキはその“親玉”が誰なのかを話そうとしない。というより、本当に知らないといった感じなのだ。ただ、ヒビキもずっと黙っている、というワケではなかった。


「……オレは今、名も姿も知らぬそのボスを憎んでいる」


「……え?」


「本当に知らない! 本当にふざけてないんだ。しかも、あの日無人島で拾われてからの記憶も一切無い。まるでこの3年間、《《オレ以外がオレであった》》かのようだ」


「……なら、どうやったらその親玉に出会える?」


 ユウヤは本気でチーム・ウェザーを壊滅させる気なのだ。ヒビキの言うことが真であれ偽であれ、この世に存在してはならない組織だ、と。

 ユウヤも、ヒビキがここで答えてくれるとは思っていない。記憶が途絶えているのならば「答えられない」が正解だろうし、これが演技だろうと「恐ろしいお方なので答えることが恐怖のあまり不可能」だろうと分かっている。


 だが、答えてもらわないと動けないのだ。チーム・ウェザーの刺客とこれからも戦い続けるのは正直、しんどい。ゴールが不明なマラソンを誰が走りたがるだろうか。


 どうすればいいんだ、ユウヤが迷いに迷っているとしびれを切らしたカナがヒビキに説明した。


「私はカナ。チーム・ウェザーの一員として働かされていた。そしてその上司はアンタ、東雲ヒビキだった」


「……チーム・ウェザーだと? その組織はどういう組織なんだ?」


「今、世界の常識となった錬力術。それを自分達だけが利用できる世界に変えようってのが理念。それを利用した犯罪とかを減らすためにね」


「……それは正義の組織な――」


「全っ然違う!」


 カナは地面を叩いた。相当怒っているようだ、いいように利用してきたチーム・ウェザーを。精神的に病んでいる時に、自らの野望を隠して寄り添ってきた謎の男を。


「平和のためとか言ってるけど、見てよここの有様! これが正義? んなワケない、アタイは今、許さないでいる。この組織を!」


「……」


 ヒビキは黙り込んでいる。それもかなり何かに迷っているようだ。そして、ポロポロと涙を流しながら口を開いた。


「でもオレ、居場所ないんだ。親にも捨てられ、帰る場所もない。それなら、そのチームなんちゃらの金魚のフンになっていた方が!」


「ヒビキ……」


 ユウヤは思い出した。かつて、本当の親に捨てられたらしいことを。偶然、自分には里親がいたが、今後ヒビキには面倒を見てくれる大人はいないのだろう。チーム・ウェザーに所属しない限りは。


「大体! オレは勉強もできない、裕福な家だったからエスカレータ式にいい進学校には通ってたが成績も下位! しかも在学中に行方不明扱いになって、きっと今退学になってる! どうすりゃいいんだよ!」


「……」


「オレだって必死に頑張ったさ! それでもオレに『自分で居場所見つけて生きていけ』って言うのか? 真っ当という盾を持ち、安全な高所から正義という名の矢を放つ偽善者め! 下が茨や撒菱だらけと知らずにな!」


 ヒビキは号泣しながら、やり場のない怒りでのたうち回っている。流石にこれを見ると、ユウヤもこれ以上ヒビキを責めることはできなかった。意図せず黙り込んでしまうユウヤ。すると、横からカエデがヒビキに話しかけた。


「……なら、私達と一緒に動く?」


「「えっ!?」」


 一同が驚く。だが、カエデは続ける。


「ヒビキとカナは、チー厶・ウェザーを内部から破滅するよう動くの。いわゆるスパイってやつ」


「え、でもオレ、記憶が……」


「大丈夫! カナには在籍中の記憶があるでしょ? それに2人は上司と部下の関係だった、それなら一緒に動いてても違和感を持たれにくい。どう、いい考えじゃない?」


「……」


「もしくは、本当に社会貢献をするチームに変えるか!」


「……でも」


「金銭面なら心配しないで! 私、バイト頑張ってるから! ちょっとした備品やご飯なら買えるから、さ」


 カエデはヒビキに微笑んだ。ユウヤはカエデに感心していた。その頭の回転の速さに、その笑顔に、その優しさに。

 ヒビキは一瞬、オドオドとした表情を見せたが、服の首元をつまんで口元を隠してそれを誤魔化す。そして、立ち上がると小さな声でカナに話しかけた。


「……カナ、チームなんちゃらのアジトがあるなら案内しろ」


「……え?」


「スパイをするしないにしても、まずは場所を知らないといけないだろ」


「……あぁ、内部から潰しましょうぜ、上司さん」


「……」


 ヒビキとカナは向かっていった。チームの本部に向かって。その背中はどこか、逞しく見えた。



 





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