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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
1章-4 決戦・ヒビキ編
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49話 嵐が去って

「何をごちゃごちゃと! お前を倒したら、あの女共を全員潰して回る予定なんだぞぉぉ!」


「……それは無理な話だ! なぜならば……」


「なぜならば……?」


「嵐雲を虚空へ追いやる方法を見つけたからなああああ!」


 ユウヤは雄叫びを上げ、もう1発タイフーン・ストレートを投げつける。ヒビキの腕元を狙って。


「ヘヘヘ。お前今、ピンチだって顔してんなぁ。それが力の根源なんだろ? その財布に溜まったレシートみたいな、大量の腕輪がなぁ!」


「や、やめろぉ! これだけは、これだけはあああああ!」


 ヒビキは腕をかばうように背中をユウヤに向ける。だが、それは決してやってはいけないミスであった。腕輪に集中するあまり、自らが放った雷の攻撃の標準を大きくずらしてしまったのだ!


 雷はタイル上を削りながら、えぐりながら駆け抜け、植樹を焼き尽くし、そして建物の外壁を大きく丸焦げにしたところで消滅してしまった。そのせいで、せき止めていたタイフーン・ストレートが飛んでくる。


「……しまっ――」


 台風を圧縮した球がヒビキを襲う。とてつもない風圧がヒビキを揉みくちゃにしており、もはや悲鳴すら聞こえてこない。ユウヤはただ、その様子を静かな目で見守っている。少しずつ勢力を落としつつも、確実にダメージを蓄積させていくその台風を。



 ようやく台風は収まった。中からはボロボロになったヒビキ、そして粉々に割れた腕輪。倒したのだ、因縁の相手、東雲ヒビキを。


「……ミッションクリア、ってやつかな」


 そう呟いたユウヤから翼は消え、元通りの姿に戻った。せっかく復興に取り掛かかり始めていたキャンパスも、再び傷だらけになってしまった。だが、ひとまずは憎き人物を倒せた安堵感とその疲れからユウヤは膝をついて倒れた。


「あぁ……疲れた」


「ユウヤー! 大丈夫ー!?」

「やったな、やったぞユウヤー!」

「やりましたわね、ユウヤさんー!」


 カエデ達が近寄ってきた。倒れたユウヤに手を貸してくれた。その手を借りてゆっくり立ち上がったユウヤは、ヒビキの顔を見た。


 ……安らかだ。息はあるものの、深い深い眠りについているようだ、まるで憑き物でも落ちたかのように。

 そしてそのそばに落ちているのは粉々になった腕輪。何か恐ろしいものを感じたが、ユウヤはそれを調べることにした。


「……ん、何だこれ? 基盤みたいだぞ」


 腕輪の中には、技術の授業やテレビの映像で見たことがあるような電子部品の欠片が混じっていたのだ。そして何より驚いたのが、壊れたにも関わらず微かに電子音を放っているのだ。それに耳を近づけて聞こうとすると、後ろからカナの声がした。


「待て、そいつを聞いちゃダメだ!」


「うわびっくりしたっ! ……元気になったのか」


「そいつは洗脳装置、念のため聞かない方がいい!」


「どういうことだ……?」


 ユウヤが困惑していると、倒したはずのヒビキがすぐに目覚めてしまった。ユウヤは驚いたが、すぐさま攻撃できるように構える。だが、その口から放たれたのは予想もしていない言葉だった。


「……あれ、ここはどこ……だ?」


「……お前が壊した大学だ!」


 ユウヤは強い口調でヒビキを威圧する。だが、ヒビキの顔は何も知りません、というものだ。洗脳云々が本当だったとしても、すぐ直前のことを覚えていないはずがない。ユウヤがヒビキの頭を鷲掴みにしようとすると、カナがヒビキの言葉を補足してきた。


「ヒビキについてた腕輪の量……アクセサリーの量と洗脳の強さは比例する! だから本当にヒビキはこの数年間のことを覚えてないの」


「えっ!? それってどういう?」


「アタイが付けてたこのネックレス……ユウヤとの戦いで壊れちゃったけどね、これも洗脳装置。アタイは記憶と自我までは支配されなかった」


 衝撃。ポワソもヒビキも何者かに洗脳されて動いていたという。確かにポワソがセイレーンの力を使ったときに付けていた指輪やネックレスなどは歪な形に変形してしまっていた。恐らくそれにより洗脳装置として働かなくなってしまっていたのだろう。確かにヒビキも気になることを言っていた。


『チッ、洗脳が溶けちまったか!』


 繋がった、点と点が。


「じ、じゃあこいつは……」


「……なぁ、まさかだとは思うが、今は2056年だよな?」


 ヒビキが問いかける。それに答えたのはカナだ。


「2059年。2059年4月よ」


「ごじゅう、きゅうだと……?」


「アンタは洗脳されてたのよ、ヒビキ。覚えてない? 変なヤツに見入っちゃったのを」




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