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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
1章-4 決戦・ヒビキ編
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44話 予定通りは理想論

 無慈悲にも風の球は全球ヴィアンドに襲いかかった。なぜか力を失ってしまったヴィアンドにとって、その猛攻はその身に余るほどだ。


 周囲のゴミや落ち葉などは風で飛ばされ散らかってしまった。まるであの日、レジュメや文房具などで部屋が散らかったかのように。そしてその中にはヴィアンドの汗吹きタオルも含まれており、それは風に乗って近くの噴水に落ちた。


 チャポン……そんな音がしたのもつかの間、噴水の中から女の声が聞こえてきた。


「くっせええええええ! 洗えよ、クソがあああ!」


「「こ、この声は!」」


 慌てて噴水から現れたのは、なんとカナだった。噴水の中にいたにも関わらず服や髪は濡れていない様子だ。どうやら錬力術をうまく活用して自分の周りだけから水を避けていた、という所なのだろう。


 それにしても、なぜカナがここに? ユウヤが尋ねてみると返ってきたのは予想もしていない答えだった。


「ん? ああ、作戦がうまくいくのか見張っていたのさ」


「作戦だと? ユウヤがヘトヘトになったところで背後から攻撃するため。だよなぁ!?」


 ヒビキはカナ、いやポワソを威圧する。下手な動きは見せるんじゃねえぞ、そう言いたげだ。だが、それでもないようで……

 カナはゆっくりと、口を開く。


「……時計の針をずらしておいたのさ」


「な、何だと! それで14時にならずともこいつは弱体化したのか!?」


「その通り! アンタらスマホは持たないし時計も電波式じゃないやつだもんね、それをいいことに20分! 本来の時刻より遅くしておいたのよ!」


「う、裏切り者が……」


「ヴィアンドは確かにかなり強い! だけどそれは0時から14時までだけの話、それ以降はどんどん力が抜けていく、だからアンタ達を油断させるためにやったのさ!」


「そ、それで14時に来いって言ってくれたのか!」


 ユウヤは納得した。

 カナの仕掛けは以下の通りだ。まず、前提として本気のヴィアンドはかなり強い。そこでカナがこっそりヒビキとヴィアンドの時計の針を20分遅くしておく。

 そうすることで、ヒビキ達の視点で余裕を持ち13時半から戦闘を開始したとしても実際の時刻は13時50分、ヴィアンドがしっかりと実力を発揮できるのは10分しかないのだ。


「通りでカフェからこっち来たとき、時間経過が遅く感じたワケだ」


 ユウヤは感心した。一方、ヒビキはかなりブチギレている。


「いいかポワソ! お前は裏切り者、だが光栄に思え、海の藻屑にしてや――」


「うるさい、お前らはアタイを最初から()()()()()()!」


 カナの肩が震えている。本当は恐ろしいのだろう、ヒビキが、チーム・ウェザーが。内部にいるだけに、その残酷さはユウヤの何倍も認識しているだろうから。


「何よあの人魚みたいなの! 今覚えば何よ平和活動って! ふざけんのも大概にしなさい!」


「チッ、洗脳が溶けちまったか!」


「おい、ヒビキ! 洗脳ってどういうことだ!」


「黙ってろやチビガキ! 人様の事情にクビ突っ込むな、近所のおばちゃんかテメェは!」


 ヒビキは雷を落とした。そしてカナも、今は黙っててと言わんばかりにお口チャックのジェスチャーをとってくる。


「え、オレが間違ってるのこれ……?」


 ユウヤは言われたとおりぽつーんと立って2人のやり取りを眺めることにした。いや、そうするしかなかった。


「ならもう一度洗脳していただく必要があるみたいだなぁ、あのお方によぉ!」


「うるっさい! アンタこそ頭の中見てもらえば? すっかり心酔しちゃって」


「あー、そうかいそうかい! ならもう一度力を貰って、あと聖霊との契約をさせてやらぁ!」


「させないよ! だってアンタはここで負けるんだからね!」


 カナは両手を天に掲げ、噴水の中の水をその腕に纏い始めた。

 まるで“風呂を着ている”かのように、大きな水の塊がカナの腕により持ち上げられている。


「セイレーン・ロアー。これで一気に、片付ける!」


「……ん? おいちょっと待て、水はマズイ!」


 ユウヤは何かを察し、カナの攻撃を止めようとする。しかしカナの耳にそれは届かず、大きな水の塊を腕に宿したままカナはヒビキに駆け寄り、ハンマーを振り下ろすかのようにヒビキを叩きつけようとする。

 それを見たヒビキは呆れ顔で、


「ハァ……この馬鹿野郎」


 と呟き、人差し指を立てた。するとそこにビリリリリという音と共に小さな雷が暴れ始めた。

 それを気に止めず、カナはヒビキに殴りかかる。


「喰らええええええええええ!」


「……やれやれ」


 ヒビキはちょこんと指を水の中に入れる。その瞬間だった。


「ア、アアアアアアアアアアアアアア!」


 カナは突然態勢を崩し、そのまま倒れて動かなくなってしまった。ユウヤはそれがなぜかすぐに分かった。


「噴水の水!」


 純粋なH2O、つまり水は電気を通しにくい、つまり絶縁体のはずだ。だが、そこに何かが混じったりすると、一気に水を通しやすい性質に変化してしまう。噴水の水は純粋ではなく、他の物質が混じっている。そのせいで、水の塊に少し触れたただけでとてつもない電流がカナを襲ったのだ。


 つまり相性で言えば圧倒的不利、水の塊は攻撃手段というより、ただのまとだ。


 カナはかなりぐったりしている。ユウヤは思わずカナに駆け寄り、無事かどうかを確認する。


「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」


「……なんで、助けようと、するの……」


「当たり前だろ!」


 ユウヤは声のトーンを落とし、耳元でささやく。


「情報くれただろ、ヒビキが現れること。 それにヤツらの到着時間でなく、あのゴリラが弱体化する時間を教えてくれた」


「……べ、別にあれ、アタイの勘違い……だから」


「嘘つき。時計をイジってヤツらの作戦を狂わせてくれた! そこまでしてくれて、見捨てられねぇよ……」


「へへへ……そんなに耳元で喋ってるとさ、そういう関係だって勘違いされちゃうじゃん。後ろにいるの、友達だろ?」


「え?」


 後ろを振り向くと、そこに立っていたのはカエデ、メイ、そしてイチカだ。


「ユウヤー! 助けに来たよ!」

「すまんなぁ、渋滞してて30分弱遅刻しちまった!」

「ついにわたくしも参っちゃいましたわ!」


「モテモテだなぁ、アンタ。ほら……早く離れないと……勘違い、されちゃうわよ……」


 だんだんとカナの声が小さくなっていく。そして目も、どこか虚ろになっていく。慌ててユウヤはカエデを呼ぶ。


「すまん、助けてやってくれ! アロエって技で!」


「う、うん。わかった! でも、その人誰?」


「説明は後! ただ、敵ではないってこと、オレが保証する!」


「……うん、わかった! ユウヤが言うなら、信じる」


 カエデはカナの腕を掴み、治癒を試みる。それを見たヒビキは多少苛立ちを見せながらも、手を叩いて笑ってみせる。


「友達ごっこ、てか! まぁいいさ、本当に討ち取りたい首は! 鳥岡ユウヤ、お前のものなんだからな!」


「……あぁ、お互い様だぜヒビキ。お前を倒すことは、この場所を再び活気付いたキャンパスにするための必修科目なんでな!」


「ハハハハハ! ヒーローごっこみたいなセリフだな、だが光栄に思え! そんなことしなくても、“鳥岡ユウヤの乱”として永遠に名前が後世に伝わるんだからな」


「ならねぇよ、お前らが世界の統治者になることなんて、ありえないんだからな!」


「ならここで降参して黙ってみてな! チーム・ウェザー時代の始まりを」


 ユウヤとヒビキ、2人の間に風がビュオオオと吹いた。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 壮絶な激闘の予感…… つぎが楽しみですね(`・ω・´)
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