41話 落雷注意
翌日、13時ちょうど。天気は生憎の雨だ。切れ目なく続く雲からは勢いよく無数の雫が落ちてくる。
ユウヤはメイから言われた通り、リサトミ大学近くのカフェで待機する。サンドイッチを注文し、窓から外の様子を見ていた。大学キャンパス内の様子を監視しているメイはその様子を時折通話で報告してくれる。
「うーん、今のところ、怪しいヤツはおらへゴホッ! 見えませんわ」
「うーん、まだ来てないのかな」
「もう少し様子を見たほうがいいと思いますわ、多分そのうちそいつ来るゴホッ、ゴホっ! 参りますと思いますの」
「無理にお嬢様言葉で話すのやめなよ……」
タケトシのアカウントは13時半、つまり30分後にヒビキが大学に来ると言っていた。一方、カナは14時、今から1時間後に来ると言っていた。どちらを信じるかは慎重にならざるを得ない。下手に姿を表すと、背後から奇襲されてそのまま戻らぬ人となってしまうかもしれないからだ。
いや、そうだとすると正面からのこのこと入っていくのも危険かもしれない。一応、ぐるっとキャンパスを周って後ろから歩いていったり、建物と建物の間を縫うように、慎重に突入する手もある。
時間、ルート、先に見つかったらどうするか、先に見つけたらどうするか。その組み合わせは数え切れないほど思い浮かぶが、その中から最適解を引かなければかなり不利になる、それほどヒビキは強者なのだ。
メイは1分おきに、時報のように今の状況を伝えてくれる。5分、6分、7分。どんどん運命の時へと近づいていく。ユウヤもたまらず、何回も何回も繰り返しメイに尋ねる。
「……いるか? 怪しいヤツ」
「……それらしき人はいま……んっ!?」
メイが突然声を大きくした。何か見つけたのか、詳しくユウヤは問いかける。
「いますわ、2人、建物の屋上に!」
「おい、それどんなヤツだ!」
「見えますわ、深々とパーカーを被った中二病みたいな男と、ゴリラみてぇなガタイの男が!」
「……先に現れ監視中ってか! 気が早いシゴデキだなぁ!」
ユウヤは急いでサンドイッチを平らげ、靴紐を結び直し窓に手を当てキャンパス内の様子を鋭い目つきで見つめる。
「……待ってろヒビキ、リベンジしてやるからな!」
ユウヤは急いで食事の代金を支払い、大学に足を踏み入れた。メイとの通話は繋がったまま、スパイになったかのように物陰に隠れて少しずつヒビキに接近していく。
「メイ。ヤツらはどうだ、気付いていそうか?」
「いえ、今は違う方向を見ていますわ」
「そっか、ならもっと近づけるな」
ユウヤは少しずつ、少しずつ、でも足早にヒビキ達に接近していく。直線距離で残り80メートルといったところか。
「ヤツらは何してる? 景色を眺めてるだけか?」
「そうですわ、今のところは」
「そっか、なら今のうちに!」
残り70メートル。ユウヤの目にもヒビキ達の姿が見えるようになってきた。距離は離れているものの、ちょうど真っ直ぐ先にある建物の屋上にヒビキ達は、いる。ユウヤは大学内に建てられたコンビニの陰に隠れてヤツらの様子を眺める。
「今物陰に隠れてる! どうだ、動きはありそうか?」
「うーん、変な動きは特に……」
「よし、なら噴水のあたりまでいっちょ攻めてみっ――」
ユウヤがダッシュで一気に距離を詰めようとしたその瞬間だった。
「少しお待ちを、何やら腕を振り上げましたわ!」
「えっ――」
空が光った。そして、まさにユウヤのすぐ側、コンビニの天井に無数の雷が降り立った。
ゴロゴロゴロゴロ、バリイイイイイン!
「うわっ!」
ユウヤは驚き、かなり派手に転倒してしまった。その上声も出してしまい、気付かれてしまっても無理はない。
慌てて立ち上がると、いつの間にか目の前に2人が立ちふさがっていた。
「くそっ……お前らは!」
「久しぶりだな、鳥岡ユウヤ」
雷のように鋭く突き刺さるような声。間違いなくそれはこの前大学を襲撃した張本人! 東雲ヒビキだった。