36話 フランク・ボーイ
「あのお方に授かった力だと?」
「あぁ、その通りだ。それまでオレはダメダメだったが、チーム・ウェザーの一員として転生した瞬間! ものすごい力を手に入れたのさ」
「チーム・ウェザーって、あのヒビキの!」
「ヒビキィ? そんなザコと一緒にするんじゃねぇ!」
空浦はいきなり声を大にする。思わずユウヤは驚き耳をふさぐ。それにしても、ヒビキがザコとはどういう意味だ? ただの見栄っ張りか? いや、もしかすると……ユウヤは質問する。
「あのヒビキがザコ? どういうことだよ」
「フフフ……どうせ死ぬんだ、教えてやる。」
空浦は疼いているらしい右腕を左手で抑えつつ、絞り出すように声を出す。
「所詮、ただの戦闘員の1人だアイツはぁ……!」
「な、んだと……」
ユウヤは絶望した。大学内の建物や学生を次々と遅い、かなりの被害を生み出したあの男がボスではないだと? ただのハッタリやカッコつけであってくれ、何とかそう思おうとするが、それも虚しく心の芯までゾッと冷えるような感覚を覚える。
「フフフ……怯えているな。ならすぐに楽にしてやる」
空浦は両手を膝に置き、大きく息を吸い込んで吐き出した瞬間、ユウヤに向かってかなり強い突風が走る。
その風音は鉄板すら簡単に貫通してしまいそうなほどに鋭く、恐ろしい。
「ぐぅっ……! まさかこいつ、オレと同じ風使いか!?」
「風使い? そんなモンじゃねぇ、さらに続けるぞ!」
空浦は今度は大きくしこを踏んだ。すると5秒ほど時間を置いてユウヤの足元のコンクリートが泥に変えてしまい、ユウヤは足を取られてしまった。
「ぐわっ! 今度は土属性かよ、なんてヤローだ……」
「こうなってしまっては動けまい、ここから必殺・禁忌滅亡術で決着をつけるとしよう」
「ぐ、ぐりもわーるって何だ――」
間髪入れず空裏はボルドー色の禍々しい巨大な光を頭上に浮かべ始めた。それは熱く、冷たく、明るく、暗く、とにかく一言で表すことのできない不思議な光である。
それを浮かべながら一歩一歩、空浦はユウヤの近くへと迫ってくる。一方、足を拘束され自由に動けないユウヤも何とか抵抗しようとする。
「くそ、明らかにピンチだが……やってみるしかねぇよなあ!」
「……ぬ?」
風の球を何とか投げ、グリモワールと相殺しようと試みたユウヤ。これは命を狙われた緊急時だ、それにあの老婆に力を引き出してもらった、だから空浦を撃退できる!
そう考えていたものの、それもただの甘い予測でしかなかった。風の球はグリモワールを打ち消すところか逆に吸収され、光はさらに禍々しさを増したのだ。
「何っ!?」
「フハハハハ! わざわざ我が術を強化してくれるなんてなぁ」
「くそっ、まさに手も足も出ない状態じゃねえか……」
どうしようか、どうやって打開しようか、どうやってあの技を受け止めようか。
足を拘束されたこの状態、せめてダメージを最小限に留めなければ……ユウヤは身構える。それを見た空浦はニヤリと笑い、ゆっくりと禍々しい光をこちらに投げ飛ばしてきた――その瞬間だった。
「ダメダメー、ノーセンス」
「ん? この声どこかで……」
英語混じりの喋り方の男が、そのグリモワールという技を片手で受け止め、空浦に向かって跳ね返してしまった。
「な、何をするんだテメェ、いつも邪魔ばかりしやがって、これは謀反だぞ!」
「ユウヤはボクがいつか戦うって決めてるんデース! それももっと本領発揮、してからネ」
「グアアアアアアア! くそっ、始末書じゃ許さね――」
空浦は、グリモワールに包まれてそのままどこかへと消滅してしまった。もしあれを自分が喰らっていたら……ユウヤは身震いした。サムはそれを見逃さずに笑顔で話しかけてくる。
「心配ない心配ない! あれはただの影分身みたいなモノ。戦闘員を量産しているだけデース」
「お、お前は一体何なんだよ」
「オー、自己紹介まだでしたか。ボクはサムって言いまーす! ツワモノと戦うことが趣味、ナイストゥミートゥー!」
何を考えているんだ、このサムという男は? この前の様子からも、間違いなくチーム・ウェザーの一員だ。しかしそれにしては、支配欲とか邪悪な思想とかそのような類のモノを一切感じない。だからこそ逆に恐ろしくもあるのだが……ユウヤは警戒を強める。
「なぁ、なぜここに来た? なぜ戦闘に割って入った!」
「オー……そんなに怒らない怒らない。別にボクは特別な思想もアリマセン、ただユウヤみたいな期待の芽を摘み取ろうとするヤツが許せないだけ」
「なら、なぜチーム・ウェザーに?」
「だからそれはツワモノと戦いたいだけデース」
「……あのな、チーム・ウェザーは暴徒集団でしかない。それを自分の欲求満たすために加わるなんてふざけてんじゃねぇ!」
ユウヤのフラストレーションが溜まっていく。大学生活をぶっ壊した集団の一員が何をぬかしているんだ、一体どこまで無神経なんだこのサムという男は! ユウヤの拳は硬く握られている。
ユウヤは思わず腕を振り上げ、いつの間にか元通りになっていた地面を蹴りサムに向かって駆け出したその瞬間だった。足元にはユウヤのものでもサムのものでもない、いくつかの人影がユウヤの後ろから伸びていることに気付いたのだ。
「っ! 今度は一体何だよ!」
ユウヤが振り返ると、またまた見覚えのある者を含めて数人、ユウヤを囲むように立っていた。