214話 最高位
アルケー。ホリズンイリス族の頂点にして神域の秩序を保つ最高位の存在である。
彼はいつも、一族に教えを説いていた。
「良いか? ホリズンイリス。この名は全能の勲章。この名は全知の証明。そして行く先は全ての支配ッ! 次の主導権は我々だ! 行く先は宇宙を、この手の上にッ!」
「オーーーーッ!」
彼はいつも、圧倒的な力で全てをなぎ倒してきた。神域にて災害が予測されようものなら指先1つでその原因となりうるものを壊し、反逆を少しでも脳裏に浮かべようものならその者は消し炭にされ、何千、何万、何十万……それ以上に長い長い時間を生きてきた。
それでも叶わぬ夢がある。それは地上の奪還。かつて起こった人類たち同士の生存争い、それに敗れ歴史に名前すら残さず消えていったホリズンイリス族の復活。その雪辱を晴らすべく、すべての準備を整えようとしているのだ。
「……おい、肩を貸さねばならぬか? 怯えてないで早く立ち上がれ、地面を眺めていても未来は見えないだろう」
「……はい……今、今立ち上がります……!」
どんな実力者でも、アルケーに逆らうことなどできない。絶対的存在、それを目の前にすれば、怯えてしまうのも無理はないのかもしれない。
「……早く立って進めと申しているのだ。赤子歩きでは日が暮れてしまう……できぬのか?」
「ももももも、申し訳ござ……ッ!」
「やれやれ……」
痺れを切らしたアルケーは、軽く指を鳴らす。すると3人の身体は不思議な光りに包まれ、上空へ向かって垂直に飛び出していく。
「やれやれ……テレポートを使わねばならぬとは。これでは四天王の位を剥奪せざるを得ないかもしれないな、オーディンよ……」
「ひぃぃ……あぁ、あああ……!」
「あぁ……本当に最近の者は困る。そもそも問題児ばかりだ、あの自称インフルエンサーとやらのチャラ男、未熟で幼い双子、ヘタレな親、他にも本当に……こうなれば新たな四天王を抜擢せざるを得ないなぁ、そう思うだろ? オーディンの息子よ」
「ぐー。ぐー。くかぁー……」
深い眠りについたユウヤに、アルケーのその声など届いていないはずだ。にも関わらず、確かにゆっくりと、ユウヤはその首を縦に動かす。
「……よろしい。まぁ、そのための移動なんだがな。オーディンの息子よ、下界での思い出は全て忘れろ。
数々の友人を作ってきたようだが、この革命とその後の世界の素晴らしさに比べればちっぽけな出来事に過ぎないのだ。これからは我々の戦力として働いてもらう、いいな?」
「ぐー。ぐー。くかぁー……」
相変わらず、ユウヤは眠ったままである。それでも首はなぜか、縦に動かされる。
「ふぅ……どこかのヘタレとは違い、できる子じゃないか。ならば忘れるのだ、今までのことはな……」
アルケーはそっと、ユウヤの頭に手を触れる。その瞬間、ユウヤの数々の思い出がホログラムのように空中に浮かび再現される。
『お、ツイストパーマに変えたんだ。なかなかいいじゃん』
『あぁ、イメチェンしたくなってさ』
『この授業で錬力術マスターすれば、モテ男間違いなしなんじゃね?』
『当たり前よ。服もトレンド意識しまくってるし』
「ぐー。ぐー。ぐごーー。」
『じゃあ、何かあったらウチに連絡してくれ! ウチも何かされたら言うからさ』
『オッケー。お互いにね』
『おう! ……あとさ、いつかまた“三番勝負”の続きやろう、ねっ!』
『ああ。楽しみにしとく!』
「ぐー。ぐー。ぐごーー。」
「……オーディンの息子よ、お前は普通の大学生に染まっていたのか。だが朗報、それも終わりだ、本当にな」
アルケーはリュウゴの思い出をゴミでも眺めるかのような目で見つめながら、目的地へと向かっていく……。




