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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
4章 現代事変〜肆〜
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179話 ヒーローが去るとき

「ウオ、ウオオオオオオオオオッ! やっとオレ様の出番が来たようだな! 好き放題、ヤツをブチのめしていいんだろ、な、なぁ!?」


「やれやれ……何だか正気じゃねえのか、正気なのか……分からなくなってきたぜ。悪い意味じゃないけどな」


(この目……そうか、そのつもりなのか。ならば仕方ねぇ。今は大人しく、このイチカに意識の主導権を完全に渡すか、それっ!)


「あぁ!? 正気ってどーゆー意味だよ! ウチはな、アニキ1人だけが痛い目にあってるのを見過ごすねぇって言って……あれ?」


「……おはよう、イチカ。40秒間……本気でヤツを分からせてやろうぜ」


 イチカの脳内が違和感で埋め尽くされる。自らの身に入り込んだフェニックスが大人しくなった? いや、そんなことはもはやどうでもいい。

 マイシスターといつも呼んできたモニトーが、「イチカ」としっかりと名前で呼んできた。それに、年齢にふさわしい立ち振舞いといった感じで、その話し方はいつもの何十倍も大人びて見える。まるで全てを達観し、腹をくくったかのように。


「あ、あに……お兄ちゃん、一体どうして――」


「……ありがとう」


「……え?」


「いや、なんでも……せーので同時にスタートだ……せーのッ!」


「お、おう……! オラアアアアアアアアア!」


 イチカとモニトーは同時にマンティコアに飛びかかる。その動きは流石兄妹、逐一言葉をかわさずとも連携を取り、あちらこちらから常に挟み撃ちで攻撃を仕掛ける。


散射炒さんしゃいんッ!」

「シノビ・ハステイラッ!」


 炎と炎の板挟み、その光景はまるで罪人の魂を焼却する地獄の業火。モニトーはファイアモード、イチカはフェニックスとのコンパウンド。常人では決して繰り出せない威力が途切れることなくマンティコアの体力を削り続ける。


「やはり2人とも雑魚同然! 口先だけの火の粉攻撃、そんな小技でワシを倒せると思ったならば、挑むのが1000年早かったようじゃのぉ!」


「うるせぇ、まだ時間は終わっていないだろうが! 喰らえぃブショウ・カベサーダ、10連発だああああ!」

火突ひーと、フルパワーだああああッ!」


 2人はあれやこれやと様々な必殺技でたたみかけるが、どれも全く効いている様子がない。むしろマッサージでも受けているかのようなリラックスした表情から、マンティコアは2人を挑発する。


「いい加減本気を出してくれまいか? 失礼に値するぞ……それとも、早くあの世行きにしてほしいというメッセージかの?」


「チッ……ナメていられんのも今だけだかんな! 分からせてやる、ウチらの思いの強さってやつを! 降り注げ、配熱ふぁいあ――」

「……そうか。本気でそのつもりならオレもやらざるを得ない」


 モニトーは突然攻撃をやめ、上着やポケットに入れた荷物を道路に投げ捨てる。そしてほんの少しの間空を見上げ、再度マンティコアの方を睨んで呟く。


「……二度と強がれないように分からせてやる。 ダイナミック……フルパワー……ヒイズルクニ・ブシドウ・カポエイラスペシャルだあああああああ!」


「お兄ちゃ……その技はッ!」


 イチカは思わずその技名に反応する。ダイナミック・フルパワーなんちゃらかんちゃら、というこの技はもはや禁じ手の最終兵器……嫌な未来が脳裏によぎる。


「あぁ、これを40秒間続けてやる……切り札中の切り札だが……切らずに終わる切り札など、あっても必要ないだろう!」


「そ、それはダメだ! 下手すりゃ……死んじゃう、そんなこと――」


「いいか、イチカ! オレは察したんだよ、今の20秒間で! こいつはバケモノなんてレベルじゃない……最凶最悪のオオモノ。オレは捨て身で挑むが最低ライン、だがイチカは強く生きろ」


「そ、それって……」


 モニトーの目は真っ直ぐであった。ただ、目の前の標的マンティコアを見つめ、その他視界に入り込む物、音、匂い、触感、全てを遮断し、ただただ力を脚に集中させる。

 脚が太陽、いや……もはやアルタイルの如き熱と光に包まれる。その形状は日本刀のようで、足元の影は富士山のような大きな山の形に移り変わる。科学や自然の中では起き得ない、不自然でこの世の理と矛盾した現象である。


「お、おいお兄ちゃん……やめてよ……その技、絶対に出さないって約束したじゃん……!」


「……ごめんな。オレは大嘘つきさ、初めっから……

 子供だましのヒーローの真似事をして、自分に酔いしれていた。それっぽいセリフを吐いて、それっぽい技で敵を倒し、それっぽい立ち去り方で家に帰り、また明くる日はそれっぽく現れて。オレはヒーローなんかじゃなった、ヒーローに憧れてただけの、自分を良く見せたかっただけの……虚像の塊さ」


「わ、分かんねぇよ……何が言いたいのか……とにかく、やめてくれ! ウチは、ウチは……!」


「言わなくても分かるさ。何年一緒にいたんだよ……ずっと成長を見届けてきたんだぞ? だからこそ、この最期の姿から、また何かを学んでくれ。

 それと……あのユウヤという名前だったか? あの子は素晴らしい少年だ。きっとこの国を守り、世界を守る……そんな英雄になるだろう。よろしくな、ユウヤ君のこと」


「ちょ、ちょっと……行かないでよ! やめて! やめて、お兄ちゃあああああああああん!」


 モニトーは最後、イチカを見て微笑むと、光と同化して矢の如し勢いでマンティコアに突撃し、その尾を貫いた。


「グ、グオオオオオオオオオ……! ワシの尾が、朽ち果てていく……!」


 モ二トーが切り落としたマンティコアの尾。それはアスファルトの表面にダーツの矢のように突き刺さると同時に、半径1.5メートルを腐食させて道路を崩壊させた。マンティコアは陥没した道路に突き落とされ、倒れたまま動かなくなった。

 だがモニトーの姿はどこにも見えず、そこにはパニック状態の街が広がるだけであった……。


 

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