175話 事変のプレリュード
2059年、世間はゴールデンウィークで行楽シーズンに突入する……はずだった。
だが、待っていたのは最悪の悪夢。ある者は突然「ホリズンイリス族」という効いたこともない一族を称えだし、またある者は聖霊と強制的に同化、理性を失った異形と化し、全国各地は地獄に変わった。
「グアアアアアアア! ワシは数百年ぶりに復活したぞ、人間という器のお陰で、マンティコア様の再来だ!」
「キャーー! 食べられる、たすけ、て……」
「くそ、こっちもモンスターいるのかよ……!」
「グァーッハッハッハ! ホリズンイリス一族に従うのだああああああ!」
「うわ、なんだよ、うわあああああああ!」
「ほり……って何だよ、怖えーよこいつら!」
まるでゾンビ映画のような光景である。逃げ惑う者と暴れ、彼らを追う者。錬力術の実力者達は各地で何とか暴徒と化した者達を足どめするものの、ロドリゲスやコウキが仕掛けた「バフ」のせいで一筋縄ではいかない。
「もし地上にも太陽が生まれるなら、それはきっとオレの仕業だぜ……そうだろ、マイシスター?」
「カッコつけてる場合かよ! ほら、さっさと倒すぞ、目の前のバケモン達を!」
「おおー、勇敢勇敢、流石ボクのマイシスターだ――」
「うるっせぇ! 力でわからされてぇか、馬鹿アニキ!」
「もー、イチカちゃんはすぐ熱くなる……でも、そこがチャームポイントッ!」
「うるせぇ、お前もこうしてやろうか、火突ぉぉぉ!」
「グオ、グアアアアアア!」
「ヴオオオオオオオ!」
(マイシスター……ボクも負けてられないね)
「やい、悪者達! ボクが成敗するから待ってな! ダイナミック……フルパワー……なんちゃらかんちゃらキックだあああああああ!」
「グギャアアアアアアア!」
「グアアアアアアアアア!」
「さ、さすがモニトーさんとその妹ちゃんだ!」
「頑張れ、2人ともー!」
「うおおおおおおお! 応援の力がボクを押してくれるぅぅぅ!」
「チッ……ユウヤ達、無事でいてくれよっ!」
繰り返しになるが、暴徒達が暴れているのは日本全国である。だから当然、離れた場所でもユウヤの仲間達はそれぞれの場所で敵と戦っている。
「せっかくのゴールデンウィークに、これじゃ花に嵐どころですらありません……ともかく私は戦わなければなりませんね、こいつらと。この歳で連日の連戦は、2つの意味で少々骨が折れちゃうかもしれませんが……」
「グギャアアアアア……ニンゲン、ケス……!」
「世界ハ、我ラノ物トナル!」
「邪魔スルナラ……消エテシマエッ!」
「次から次へと連戦、連戦……これじゃ休日出勤を強いられてばかりの社畜……だが、私がここで逃げるなんてとんでもありませんね……発動、“黄昏時”ッ!」
奥野兄妹も、栄田マスターも。それぞれの場所で街を、平和を守ろうとしている。問題は同時にそれが起こっていること、それがことの重大さを表していた。
「チッ……アタイ1人でこんなに大勢を相手しろってのかよ……! ヒビキ……アンタを実は頼りにしてたってこと、今更気付いてしまったよ……」
「何ヲ喋ッテルンダ、遺言ノツモリカ?」
「サッサト覚悟、決メヤガレ……!」
「グオオオオオ……オマエ、喰ッテヤロウカ?」
「ちっ……セイレーン・サイレン! 喰らええええええ!」
この戦いは、全国で同時に繰り広げられているうちのほんと一握りである。平和なんてものは、もうこの国にはないし、いずれ世界全体にその波は広がっていくだろう……