174話 開幕
「ハァ、ハァ……げんだいじへん、ってのが何だか知らねぇが……お前らが目指す世界はオレが気に入るようなものじゃない故に! ここでぶっ潰さねぇとならねぇぜ!」
「ほう……その傷を負ってでも神々に逆らうとは中々いい度胸。人間もやるときにはやるもんなんだな」
「あたりめぇだろ……お前なんか……オレが潰してや――」
「……輝脚ッ!」
「そ、その技はヒビキの!」
ロドリゲスが繰り出してきた、脚に雷を纏っての強烈な蹴り技、輝脚。それはかつてヒビキが使っていた技、チーム・ウェザー時代のヒビキは彼から闘いについて教えてもらっていたのだろうか?
「チッ、使いたくもない技を! 輝脚!」
負けじとヒビキも全く同じ技でロドリゲスの脚を迎え撃つ。雷と雷がぶつかり合い、激しい閃光が四方にほとばしる。
眩しい。その光は雷、いや太陽のようだ。ユウヤは両腕で目を覆いながらも戦いを見守る。
(見た目は全く同じ技。だが、肝心の威力ではヒビキがかなり劣っている!)
「ぐ、ぬぬぬぬ! 負けてたまるか、負けてはならないゆだあああああ……!」
「諦めろ人間風情が! お前らにわかりやすく例えるとだな……ガキンチョのキックとプロボクサーのキックでは、同じキックでもその威力は凄まじい差があるだろう! お前が繰り出す輝脚など、パチモンなんだよ、オラアッ!」
「ぐはああああっ……がぁっ……!」
「ちょ、だ、大丈夫かヒビ――」
「来るな、だから……逃げろと、言ってるだろっ……!」
ヒビキは声を振り絞りながらユウヤを制止する。手助けなどいらない、いい加減に逃げやがれ……そう目で訴えてくる。
だが、ロドリゲスという男は非情である。ヒビキの背後からゆっくりと近づき、再び脚に雷を纏わせて無防備なヒビキの脊中に蹴りをいれようとする。その時だった。
「……ヒイラギ、発動ッ!」
「ぐぁ、何だ!?」
「お、女!?」
「カエデ!」
植物観察ビデオを早回ししたかのような凄まじい勢いでヒイラギな成長し、たちまちロドリゲスをぐるぐる巻にする。そしてカエデは間を置くことなくさらに畳み掛ける。
「拘束、からの……ココナッツ!」
(コ、ココナッツ!? 新技か!?)
ロドリゲスの後ろには、いつの間にか巨大なヤシの木が成長し始めていた。ニョキニョキと、十数メートルもの立派な樹木が生まれ、ロドリゲスの頭上に巨大な影を作りだす。
「 これはタケトシ君の技、隕石みたいに頭上から叩きつける大技を思い出したの!
タケトシ君は……そのガタイを活かして身体にエネルギーや岩を纏う形で技を出してた。けど華奢な私にはそんなこと……だから、ならどうするかって今考えたの! タケトシ君の魂を受け継ぎつつ、私なりにベストを尽くせる技ってやつを!」
それは栄田マスターの道場で行われた、シュウタロウとタケトシの試合でタケトシが繰り出した技。火山弾とは異なる自らの身体で攻撃する近距離技。
そのカエデなりの再現を、この土壇場で成功させようというらしい。だが、今のところうまいこと進んでいる。まさか手出ししてくると思わなかったカエデが突然参戦してくることにより、ロドリゲスを一時的にでも邪魔できている。
「この……! この程度のトゲなど! 自然と調和し、自然と一体化して生きてきた私達が、自然相手に苦労するなどあり得ない……!」
「自然相手に苦労することはない? それこそあり得ない! 自然に勝てる生物など存在しないのだから! それに今から私は……この戦いに勝つ、つまりアナタは『作り物の自然』に負けてしまうのだから! いっけえええええええええ!」
不意をつかれた拘束に苦労する中、巨大な「ココナッツ」がロドリゲスめがけて落下する。そして巨大な衝撃波と轟音を巻き起こしながら、辺りは砂埃に包まれる。
「やったか!?」
「いや……どうだか……」
砂埃の中から、少しずつあの人影が浮かび上がる。
「嘘、でしょ……」
「嘘じゃないさ……だって奴は……!」
ヒビキはかつて、ロドリゲスと厳しい修行を数カ月間に渡って繰り広げていた。だからこそ分かる、ロドリゲスはそんじょそこらの敵とは次元が1つも2つも違うのだと。
3人が固唾を同時にゴクリと飲み込む。こうなったら3人とも考えは一緒だ。この世界を守るために、同時に必殺技を解き放つことにした。
「スナバコノキ!」
「億雷鉄砲!」
「タイフーン・ストレートォォォォッ!」
巨大な爆発性の種、雷の嵐、暴風の球が同時にロドリゲスを追撃する。だが、それで満足するワケにはいかない。特にヒビキはここで徹底的に攻撃しなければならない、そう本能が身体に働きかけた。
「オラオラオラオラオラァ! まだまだだああああああ!」
もはやヤケクソである。だが、その様子はいつものヒビキとはまるで違った。ピンチに陥りながらも的確に打開策を見つけてしつこく反撃してくる、そんな厄介な敵だったイメージのヒビキがヤケクソ状態に陥っているのだ。
だが、砂埃の奥のシルエットが倒れる様子はまるでない。それどころか、ロドリゲスの声がどこからともなく、まるで脳内に直接入ってくるような感覚で聞こえてくる。
「お前らの実力は大体理解した。特に東雲ヒビキ……やはりお前は洗脳無しじゃ大したモンじゃねえな! だが、それならそれでいい……」
「そ、それはどういうことだ、ゴラァ!」
「言っただろう? 既に現代事変は開幕しているのだよ! まるでゾンビのように……そこら中我らを崇め称える奴らで溢れかえる! 文明の最期を見届けるがいい、フハハハハハハハハハハ!」