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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
3章 現代事変編〜参〜
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168話 聖霊ミノタウロス

「くっ……! まさかアイツが目覚めちまうとはな……ユウヤの野郎、下手すりゃ理性を失い暴れちまうぞ!」


「……貴方も最近まで暴れまわってたでしょう?」


「うるっせぇ! 改心しただろうが、ほら! 今もお前と一緒にあの女と戦って!」


「それは山浦メイさんのタロットカード……戦車の馬の部分に無理やり調教されただけでしょう」


「うるっせぇ! 馬に調教される馬って何だよ、思い出させんなこの野郎……それにしても……」


「えぇ……嫌な予感がしますね」



 ユウヤに取り憑く聖霊の内の2体、ペガサスとケルピー。両者はミノタウロスが目覚めたことをうれいていた。

 ペガサスにとって、ミノタウロスはケルピーの数倍以上の問題児であるし、ケルピーにとってもミノタウロスは恐ろしい存在であったのだ。


 聖霊の寿命は短くても数千年。長い者だと数億年にすら到達する。当然、それだけ長い期間生きるということは暇を持て余すことも多くなる。だから、聖霊の世界でも人間達がやるのと同じように、様々なイベントが存在する。

 その中でも人気を誇るのが、それぞれの種族同士で対決する大規模な競技大会。100年おきに開かれる、相撲からリレー、学問……様々な競技で最も優れた種族を決める大会なのだ。


(ミノタウロス……特にあの個体はやっかいすぎる、最悪ってレベルじゃないぞ……だってアイツは……!)


『さて第906回聖霊大競技大会、ついにお待ちかね、決勝ラウンドです!』


『ウオオオオオオオオオオオ!』


 湧く会場、奮起する聖霊達。今回の決勝はケルピー族vsミノタウロス族であった。最後の競技は異種格闘技戦、まさに力と頭脳を使ったぶつかり合いであった。


 実はこのケルピーとミノタウロスは、この戦いで直接対決した2匹なのだ。だからこそ、ケルピーはこのミノタウロスの恐ろしさを嫌でも覚えていた。


『いけいけー! 頑張れー!』

『やっちまえ、ケルピー族なんて吹っ飛ばせー!』

『うるせぇ! 215大会ぶり3度目の優勝はオレ達のもんだ、ミノタウロスなんて潰しちまえー!』


『さてと……オレの恐ろしさを味わわせてやんよぉ』


『ホォ……オ前ダナ? 今度ノ相手ハ。ヨロシク』


『あぁ、よろしく頼――』


 ミノタウロスとケルピーは、お互いに蹄で握手を交わそうとする。だがその瞬間、既に勝負は始まっていたのだ。


『脳筋ダト見クビッタ、ソレガ敗因ナノダァ! ジャアナ、クソ野郎ガアアアアア!』


『し、しまったああああああああ!』


 油断したケルピーに容赦なく、ミノタウロスは全体重を乗せてくる。両者の体格は一目瞭然、まるでサラブレッドと巨大な闘牛である。

 ケルピーは反撃も何もできず、そのままミノタウロスの下敷きとなってしまった。全く盛り上がらない最終決戦に会場はブーイングの嵐に包まれる。しかも、そのヘイトはなぜか全てケルピーに向いていたのだ。


『おい、ふざけてんじゃねえぞ!』

『何だよこれー! チケット代返せ、チケ代!』

『おもんねぇぞ、この野郎ー!』


 リングにはゴミが投げ捨てられ続ける。食べ残しも、メガホンも、コップに入れられた飲料も。聖霊の世界では共通の認識がある。人間界で言う、「勝てば官軍」である。この思想が異様な程強く、ズルをしてでも勝つことができれば大抵、無罪放免なのだ。だからこそ、このような大会は異常な程にまで盛り上がるのだ……



「ウオオ、アアアアアアアアアアア!」


 ユウヤの変化は止まらない。まるで異形に変わり果てていくかのように苦しみ悶え、そしてその声も猛獣のように恐ろしいものへと変わっていく。それを見てスズは嬉しそうに高笑いする。


「おー、いいじゃん、いいじゃん! アーッハハハハハ! やっぱり生で見るに限るよねぇ、こういうやつは!」


「グアアアアア……アア……アアアアアアアア!」


「ユウヤ……ちょっと大丈夫!? あの女は私が止めるから……痛っ! だけど……友達が苦しんでる前で弱音なんか吐けないよ……ホウ……セン……カアアアアアアッ!」


「チッ、小蝿みたいにうざったい!」


 スズは腕に装着された犬の頭を伸ばし、次々と飛んでくる種型のエネルギー弾を1つ1つ地面に叩き落とす。その度小さな爆発が起きるものの、全くスズにダメージは通らない。


(これでいいのっ……! 強力な一発を放つスナバコノキより、無数の種で時間を稼ぎ続ければ、そのうちユウヤも落ち着けるかもしれない! だから私は、ここでやれるだけのことを発揮するだけ!)


「まだまだっ……! 私だってずっとユウヤやタケトシ君と戦ってきた! ナメないでよ、追加のホウセンカアアアアアアッ!」


「チッ……発動、ナイトメアッ!」


 再びスズの前に黒い霧が立ち込める。その霧はまるでブラックホールのようにカエデの攻撃を飲み込んでいく。ダメージを与えられないというより、そもそも攻撃になっていない。


 カエデの体力が消耗していくのに対し、スズは全然平気そうだ。流石に実力の差が大きすぎたのだ。カエデはついに体力を使い果たし、その場に倒れ込む。


「ハァ……ハァ……なんてヤツなのよ、あいつ! 全く術の仕組みがわからない、ねぇユウヤ。一体どうすれ……ユウ、ヤ……!?」


「……おっと、おはよう。ミノタウロス君だよね。気分はいかがかな? 多分、数千年ぶりの目覚めは?」


 カエデとスズの目の前に立っていたのはもはやユウヤではなく、上半身の筋肉が異常なほどに……まるで闘牛のように膨れ上がり、巨大でいびつな角を生やし、鼻からは蒸気を吹き荒らす……正真正銘、文字通りのミノタウロスであった。


「ハァ、ハァ……潰ス……潰シテやるぜ……犬飼スズ……! ンモアアアアアアアアアアアアッ!」


「……そうこなくっちゃね!」



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