表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
3章 現代事変編〜弐〜
146/221

144話 荒海

「いや、ここはアタイ本人の力で戦うことにするよ」


「へぇ……ならばヒビキと一緒に、くたばれ!」


 アパタイザーは毒爪を振りかざしながらカナに迫ってくる。カナは丁度すぐ側にあった蛇口をひねり、水源を確保する。


(本当はビショビショに濡らしたこいつらをヒビキの雷で仕留めるのが最適解なんだろうけど……ヒビキは今謎の猛毒で動けない、ならアタイがやるしかねぇだろ!)


 カナは目を固く瞑り、何かを思い出すような仕草を見せると、一呼吸置いて蛇口から流れる水を蹴り上げ、空中にボール状に水の塊を作り上げた。


 だが、右足を後ろに持ち上げた瞬間、嫌な思い出がフラッシュバックした。思い出したくないのに思い出してしまう、幼少期の思い出だ。


(なんでよ、なんで今に限って、ボールを蹴るってだけであの光景が……! だけどトラウマに囚われ続けていたら……アタイがけじめをつけなくちゃ、取り返しのつかない世界に変わってしまう……!)



――――――

『キャッ……! 痛い、足が動かないよ……!』


『ヘヘッ、これじゃ不敗どころか《《腐敗》》のカナじゃねえか、ハハハハハ!』


『選手交代、海田カナに変わって泉シュウジロウ!』


(こ、ここで終わっちゃうの……? 嫌だよ、そんな……!)


『何だよ……普通にタックルされただけで!』


(え……? 心配してくれないの……? なんで責められてるの、ラフプレー受けたのはこっちなのに……!)


『いいとこ取りばっかりしやがって……ずっと嫌だったんだよな……』

『実は強豪の中学に行くって決まってるらしいよ? もうこのチームも私達のことも何とも思ってないんじゃない?』


(おかしい、おかしいよこんなのって……!)

――――――


 かつて、仲間だと思っていたチームメイト。だが、彼らは敵のラフプレーにより負傷したカナ自身を責め立てた。心配なんてしてくれなかった。それから、ただ好きだったサッカーを満足にできない、虚ろな人生をただ過し続けてきた。

 そして、そこに手を差し伸べてきたのがチーム・ウェザーだった。だが彼らも、寄り添うと見せかけて実際は恐怖によりカナを芝居していたのだ。


 このトラウマは生涯にわたりカナを苦しめるのだろう。傷付いた紙くずをいくら引き伸ばしても元には戻らないように、まるで一生傷のようにカナを蝕み続ける。この一球は、そんな過去との決別、新たな殻を破る瞬間だ。


(だから……アタイはここでトラウマを克服し、見返してやる! だからこの技で、吹き飛ばす!)


「……マリアナ・バイシクルシュートォォォォ!」


「……へぇ、それが噂の新必殺技ってやつかい。でもボクが簡単にせき止めてやらぁ!」


 アパタイザーは装着した鈎爪でシュートを止めにかかる。だが、カナの錬力術を込めたシュートがいかに強力だったのか、もしくは彼女の存在精神力が後押ししているのか、まるでサーキットを駆け回るカートのタイヤの如く、勢いを落とすことなく回転と進行を続ける。それはまるでボールが意思と生命を得たようにも見えた。


「な、なんだよこの威力……! ただの水の塊だったのに、まるで砲丸!?」


「元々アンタらとアタイの実力差は雲泥の差だったろ! コウキのヤローによるバフがかかっていようと……アタイ達もユウヤと出会って……成長できたんだ、人としてもな!」


「う……うるせぇ、うるせぇぞ! こんなボール程度……」


「アパタイザー殿、大丈夫でござるか!? 我も応戦しますぞ!」

「オ、オレもやるぞ……ヒビキとやらに逆襲するためにもなああああ!」


 慌ててスープとヴィアンドもアパタイザーに応戦する。それぞれの錬力術をボールと逆方向に噴射し、勢いを止めようとする作戦だ。


「ガハハハハハ、どうだ1VS3では勝てねぇだろう! 大人しく諦めて処刑を待つがいいわ!」

「ほら……謝るなら今のうちだよ? ま、謝っても許されることなんて100パー無いんだけどねっ!」


「……誰が『1人』だって……? 勘違いしてるんじゃないのかい?」


 カナはニヤリと笑う。それを怪訝そうに3人は見つめる。


「何が言いたいでござる? ヒビキ殿も既に満身創痍、周りにもカナ殿に加勢してくれる奴なんて……って!?」


「満身創痍……オレが一撃でやれるとでも? 聖霊には聖霊をぶつけりゃあいい、そして、それはオレが代わりにやっても別に良い!」


 いつの間にかヒビキは神々しい姿でカナの後ろに立っていた。全身に雷を宿したようなオーラ、そしてユニコーンを彷彿とさせる角と尾。ヒビキはただ一回指を鳴らすと、3人にそれぞれ1発ずつ、雷が落ちた。


「「「ぐああああああああ!」」」


「ナメてめらっちゃ死ぬぞ、文字通り?」


「ヒ、ヒビキ! 無事だったのかい!」


「当たり前だろ、アイツらは腐っても元部下、聖霊を身に着けようとしていたことなど調査済みよ」


 一気に形勢逆転したカナとヒビキ。最後に畳み掛けようと、2人はさらに力を絞り切る。


「あの技、やるしかないね!」

「あぁ……」


「「……荒海レールガン!」」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ