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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
2章_4 潜入編
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118話 カナが継ぐ思い

「アタイはな……ユウヤに助けられたんだよ。本当の優しさってのを教えてくれた! 初めて会った時、アタイはユウヤの命を奪いに行ったはずなのに……気付けばユウヤに命を救われていた、生きる希望を与えてくれた!

 だから……ユウヤの未練は継がなければならないんだああああああ!」


「ほう……姉ちゃんおもろいやないか。でも見たところ力不足や。聖霊持っとるはずやろ、それ使えや、今すぐコンパウンドするんや!」


「コンパウンドォ? ああ、アタイはもうあの力を使わない! 自分が自分でなくなってしまっては……ユウヤの未練を忘れてしまうかもしれねぇからな!」


「ほう……なら友情と怒りのパワーってもんを見せてくれや。まぁ、姉ちゃんが勝つ確率は……せいぜい2%くらいやろうけど」


「言われんでもな……! クロール・エンクローズ!」


「待ちなさい! その男は運動エネルギーそのものを支配する能力、方向や発生場所まで全て手に取られる――」


 真銅の忠告は一步遅く、既にカナは技を発動させていた。どこからか現れた10本程の水が勢いよく、まるで水自身がクロールで泳ぐかのように波を描きながら四方八方からシュウタロウに襲いかかる。その姿はまるでホーミングミサイルのようだ。


(見かけはただの水の噴射を同時に起こしとるだけ……だが、その中身はまるで兵器! だからこの前ゼピュロスにやったみたいに重たいものを一気に投げつけたいところやが……生配信中で精密機械が並んどる、かつ洗脳放置も保管してあるここでは……その力は使えへん!)


(チッ、なかなか当たらねぇ……! この中のたった1本だけでいい、ヤツの体を貫くことができれば一瞬で始末できると言うのに……!)


 シュウタロウは一度その水から逃げ回りながら「反撃」のチャンスを伺う。だが、カナの攻撃もかなりしぶとく、時には挟み撃ちを企み、そして時にはシューティングゲームの弾幕のようにシュウタロウを迎え撃つ。だが、肝心の直撃になかなか至らないのだ。


「侮辱しやがって……いい加減くたばれえええええ!」


「くたばるのはそっちや! 自らの技でなあああああああ!」


 シュウタロウは両手を勢いよく前に突き出し、追いかけてくる水を空中でせき止め、カナの方へその軌道を強制的に転換させる。


「何っ!? アタイの攻撃が全て……!」


「これこそワシのオハコや! さぁ永遠にもがき苦しめえええええ!」


「……とでも言うと思ったのかい!? それならもう一度……その軌道をアンタに向け直すだけよ!」


 カナが大声で叫び、右手を勢いよく前に突き出す。すると再び水はシュウタロウの方へと飛んでいく。


「さらに追加だ! よくよく考えれば……きっとユウヤの想いは、これだけじゃ足りねぇからな! それこそユウヤの技を借りてそれで倒す!」


 カナは右手の上に大量の水を集めながら、それをどんどん圧縮していく。流木に、ゴミに、石に枯れ葉に海藻。世界中のありとあらゆる水源から水を集め、それをサッカーボールほどの大きさにまとめてしまった。色はもはや黒、深海を彷彿とさせる暗黒の色である。


 その技はユウヤの仲間達、ヒビキ、そしてシュウタロウにとって見覚えがあった。カナにとって、倒れた仲間の想いを受け継いで、その仲間の分までしっかりと戦うこと、それが美学であったのだ。かつて自分の仲間クラブメンバーがしてくれなかったことを、カナは仲間ユウヤにしてやろうと固く決心したのだ。


「アタイもな……このボールを持ってるだけでだいぶしんどいぜ……まるで深く水に潜ったみたいな、痛々しい圧力を全身に感じている……だから! それをぶつけて成敗することにしたのさ!」


「そ、そんなもん跳ね返すだけや、やってみぃ!」


「それならやってやんよ! マリアナ……バイシクルシュウウウウウトッ!」


(イアアアアアアアッ! 疼く、あの頃の傷とトラウマが……! だけど……お願い、決まって……!)


 カナが強く蹴り飛ばした投げた水の球はシュウタロウに向かって弧を描き飛んでいく。シュウタロウは術の発動が間に合わず、胸元に攻撃をモロに喰らってしまった。そして水が弾けた瞬間シュウタロウは身動きが取れなくなった。まるで深海に沈められたかのように。


「ぐあああああああ! 動けへん……!」


「ハハハ、運動エネルギーの方向を変換させられるらしいなあ、シュ・ウ・くんっ! だが友情、信頼という力は操れなかったようだな!

 アタイはユウヤがホリズンイリス族だろうがそうじゃなかろうが関係無い! この苦しみは! 本当の居場所ってのをくれたユウヤの分だああああああああ!」


「た、助けてください、()()()()……! このままでは……死んでしまいま……す……!」


「クヌム……あーあ、言っちゃったねぇ、その名前」


「……はっ!」


 コウキは突如手持ちのカメラをシュウタロウに向ける。すると突如、シュウタロウはまるで固まった粘土のようにカチカチになって全く動けなくなり、その場に倒れてしまった。

 シュウタロウは怯えている。このような姿はユウヤやイチカを含め、誰一人として見たことがない。


「お許しを……どうか、お許しを……!」


「えぇー、ダメだよ。だって……」


 シュウタロウの必死な命乞いも虚しく、カナの攻撃クロール・エンクローズは全てシュウタロウに襲いかかった。全身を貫かれ、大怪我を負ったシュウタロウ。それでもなお、目でコウキに助けを懇願するが、むしろコウキはシュウタロウに向かってパチンと指を鳴らした。すると、シュウタロウはそのまま霧のように、瞬く間に消滅していった。


「だってオレの本当の名前、バラしちゃったんだからさ。ロラバターの分際で……ちゃんと聞こえてたよねー、ヒビキ君にポワソちゃん」


「ク、クヌム……! コウキ、まさかお前も……!」


「おお、ヒビキ君いいねー! どうやら気付いたようだね、流石。オレは、チーム・ウェザーとかいう捨て駒の幹部などではない!

 汚れた地に生きる偉大なる一族、ホリズンイリスの戦士……コウキ・クヌム・ホリズンイリスなのだからなぁ!」


「ホリズンイリス……ずっと監視してやがったのか!?」


 衝撃の事実。洗脳されていた頃は仲間として見ていたコウキ。その正体はチーム・ウェザーを裏で操っていたホリズンイリス一族の民であったのだ。

 ヒビキ自身、自分達のさらに《《上司》》としてホリズンイリス一族が存在していることは知っていた。だが、まさかその一員がずっと身近なところで活動を監視していたなど、思いもしなかったのだ。


「ヒビキは嵐、アズハは吹雪。ナギサは大雨、それにオレは晴天……と見せかけて、本当は何でも作れる能力さ。オレにかかれば、まるで粘土をこねくり回すように簡単に炎とかを作れるからね。

 ま。それを利用して洗脳装置を作ったり、オレの視聴者には、オレへの絶対的な信仰心を植え付けたりしてたんだけど……」


「ほう……だからこんな場面を放送しても、好意的なコメントで埋まっているワケかい」


「その通りだ、ヒビキ……そして、オレ達の野望もまもなく叶うのさ。オレ達が全世界の王となり、そしてオレ達の望む世界を作り上げること。それがまもなくな!」


 


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