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魔法が日常となった世界で、今日も地球は廻る。  作者: おみたらし
2章_3 敵拠点、潜入計画編
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99話 ホリズンイリス

 鳥岡ユウヤ、2040年生まれ19歳。どこにでもいる普通の大学生……でありたかった。そう考えることは何度もあった。


 ユウヤが生まれたのは人里離れた孤島。自然に囲まれ、不思議なことに外から見るとそれはそれは神秘的なオーラに島全体が包まれているとか、いないとか……とにかく不思議な場所であった。


 この島には異質なしきたりがある。赤子が生誕し177日後に祠のような場所の前でとある儀式を行うという。そうすることで秀でた知識や運動能力、そして聖霊の力を享受できるのだ。極端な話、赤子の状態で人間社会に解き放たれても1人で難なく生活できるほどになるという。


『ンギャー、ンギャー!』


『あらあら……()()()()()、暴れないの、暴れないの。今から素晴らしい力を手に入れられるのよ』


『そうだぞ……どんな力を持ち、現代文明に牙を向いてくれるか……さぁ、とくとご覧にいれよう』


『そうですね……∫/∪∞□Ⅴ○、もしくは√☆★βあたりが憑いてくれれば100年、いや1000年に一度の逸材に……!』


『そう簡単にはいかねぇが……ん? 何か沢山の光がジェフリーに入っていくぞ?』


 ユウヤ、いやジェフリーとここでは呼ぶことにする。ジェフリーの体に、白、黒……他にも様々な色の“何か”が吸い込まれていく。想定外の状況に両親は慌てるが、不思議な力が働いてジェフリーを助けることができない。


『ン、ン、ンギャアアアアアアアアア!』


『ま、まずい! 多すぎる、これだと耐えきれずに暴走してしまうぞ……それにしても、眩しい……!』


 その瞬間。その島は強大な光に包まれた。まるで地上に神でも生まれたかのように、荒々しく、優しく、恐ろしく、柔らかく鋭くつよく。

 荒波が立ち上げ、大地が震え上がり、大地は発熱し、空はデタラメに雷と雨粒と氷を落とす。何より、台風のような風が島を包囲した。


『な、何だこの力は……! 強すぎる、まるでジェフリーの中で神々が争っているようだ……!』


『ええ……特にこの風! 間違いないです、この子は10万年に一度の逸材!』


『あぁ……! ならばミドルネームは暴れし風の神、ボレアスのないを授けよう……!』


 ジェフリー、いやボレアスはそれから厳しい教育を赤子から受けた。勉学、運動、魔術……だが、どれも両親、そして周りからの期待には程遠かった。

 伸び悩んだ。間違いなくポテンシャルは持っているはずなのに、たくさんの聖霊を抱えられるほどの天才児であるはずなのに、周りとどんどん差をつけられていったのだ。


 聖霊を宿すことによるデメリットは多種多様だ。髭の伸びるスピードが2倍になるとか、好きな人に気持ちが溢れちゃうといったものから、寿命を縮めてしまったり様々な能力を土壇場以外で発揮しにくくなるなど様々だ。

 にも関わらず、「聖霊ガチャ」でハズレを引いてしまうとそれだけで劣等生とレッテルを貼られてしまう。


『キャハハハハ! もしかしてお宅の子、まだ魔術値15r程度なの? 私の子、2人とももう600rなのよ。40年後の成人日が楽しみですわ!』


『えぇ……ここまで期待外れな子は初めて見ましたよ……あっち行ってくれませんか、同じみたいに見られたくないので……』


『その程度でボレアスって……恥ずかしいと思わないの? 今からでもタメイキとかハナイキとかに名前変えてみては?』


 軽蔑、唖然、中傷。ありとあらゆる屈辱を、物心が付く前にして受け続けた。初めは庇ってくれていた親も、次第にはユウヤを攻撃するようになってきた。


『この出来損ないが……! 追放だ追放、我々の侵略の日にお前の命も存在もまるごと、一族の歴史から抹消してやる!』


『……ちょっと待ってくださいよ、そんな言い方しなくても……!』


『うるせぇぞ、マウロ・ヘ――』


『嫌よ! 子に対して何てことを!』


『あぁ!? 文句があるなら2人まとめて! 明日追放してやる……分かったな! 嫌なら言うことを聞け!』


『そ、そんな……』


 ユウヤは、翌日追放されることとなった。この島では強き者の言うことが絶対、倫理も何もかも実力者が絶対に正しいのだ。


 ユウヤはもちろん赤子なので、両親のこの会話を理解できなかった。ただ、19歳になった今でも夢に時々出てくる父の姿。心に傷を付けていたのは間違いない。


 

 追放直前、母であるマウロはユウヤに語りかけていた。


『……ごめんなさい、私には……もうどうすることも……! だけどせめて、できることがあります。まずは名前の変更。荒い風神にはなってほしくない……むしろ、希望とか、命を育んでくれるような春風を……今からミドルネームはゼピュロス……希望を、お願いします……』


『ンキャ? キャハハハハハハ!』


『その笑顔、忘れな゛い゛で……! 絶望ではなく、そのような笑顔で世界を埋め゛で……! つい近年、人類は私達の魔術を見つけた。かつての人類の希望、錬金術から連想して錬力術と名付けて……!』


『エンイ、ブーフー……キャハハハハハ!』


『私もいつか、必ず迎えに行くから……もしその前に侵略が起こるとしても、きっと人類に希望を生んでくれるって信じてる……! それじゃあね……!』


 そして、ユウヤは追放された。マウロは見送ることすら許されず、ただ遠くから祈ることしかできなかった。


 その後ユウヤはH県Kエリアにある鳥岡家に拾われ、すくすくと育つこととなる。魔術、いや錬力術はしばらくの間、相変わらず落ちこぼれだったのだが……

 




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