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 女神信仰総本山。

 山に無くても総本山。王都の教会は女神ウェスティ様を祀る場所として頂点に存在する。

 それだけにとても大きくて豪華だ。何も知らない人にこれが王城だよと言っても信じて貰える位には規模が大きく華やかである。建物だけでは無く、公園もあり王城と違って全ての人に開放されている憩いの場であり立派な観光スポットの1つだ。王都ゴートに来たならば必ず一度は行くべし!と言われている。

 朝を告げる1つ鐘の音を聴きながら歩く公園内には、散歩しているらしき人、慌ただしい様子で小走りで何処かへ行こうとしている人の他にも観光者や間もなく外と王都を別けている外門が開くということで、これから活動を始める冒険者らしい姿も見える。実に様々な人達を眺めながら、教会の建物へと向かう。

 これから礼拝に向かう人々の列に並んで中に入り、そのまま大聖堂に向かう人の列から逸れて事務室へ向かう。使用人の姿をしているからなのか、特に気に留める者はいないようだった。


「失礼します。ノースロード家から参りました」


 ノックをして、扉を開けると見慣れた神官様がいた。

 帽子を取って一礼する間に立ち上がってこちらに向かって来る。


「おはようございます」

「おはようございます。お疲れさまです」


 私は手に持っている袋を渡そうとして、名前を書いていなかった事を思い出す。神官様に筆記具を借りて箱に『女神様へ』と書いた。これで大丈夫だろう。


「女神様より依頼されたお品物です」

「伺っております。確かに受け取りました。そしてノースロード家の使いの方が来られたらこちらをお渡しするよう言付かっております」


 神官様はそう言って床に置いてあった布が掛けられている30センチくらいの正方形くらいの箱のようなものを持ち上げる。

 持った感じはそんなに重くは無さそうだ。


「こちらは?」


 私が首を傾げると、神官様は片手で箱を持ってもう片方の手で布を取る。

 小さなカゴだった。中に根の部分が4又に分かれたニンジンが1本入っている。

 それが、むくりと起き上がった。分かれた先の根がうねうねとそれぞれに動いている。根の上の方。分かれていない部分に顔が付いていて思いっきり目が合う。

 正直気持ち悪い。ナニコレ。

 カゴを掴んでわっさわっさと葉を揺らしてヘッドバンギングを決めるニンジン。中から必死に揺らしているのに、カゴ自体はびくともしない。

 ナニコレ。


「マンドレイク、という植物だそうです。活きが良いのが手に入ったので、次期当主のお祝いとして届けて欲しいと」


 私の表情で大体の事は察したのだろう。神官様はしっかりと教えてくれた。

 次期当主は私だ。正直要らないのだが、女神様からのお祝いと言われると断れるはずが無かった。要するにノースロード領までこれを持って行かなければならないらしい。


「ニンジンのようですが、ナス科らしいですよ」


 ナスだった。どう見てもニンジンである。

 困惑している私を余所に神官様はカゴに再び布を掛けると私に押し付ける。

 そして、商隊への依頼書だと言って手紙を渡して来た。

 一旦マンドラゴラを置いて手紙を開く。王都で積む荷物の一覧と、それを各地に届ける分配数などが書かれた目録だった。正式な依頼書である。

 それを無くさないように胸元のポケットに仕舞う。


「出発はいつ頃ですか?」

「恐らく明日の朝になるかと」

「そうですか、道中お気を付けて。女神様の御加護がありますように」

「ありがとうございます」


 挨拶を終えて帽子を被り直すと、マンドレイクの入ったカゴを持って事務室を出る。

 カゴは軽かった。

 大聖堂に寄って挨拶をして行こうかと思ったけれど、変なニンジンを持っているので止めた。


「シンシアちゃん、大丈夫かな」


 多分同じ敷地内の何処かにいるだろう聖女見習いの少女の事が気になったけれど、どうする事もないまま私は教会を後にした。


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