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4・それぞれの苦悩。響く泣き声とあきらめた妻


三津屋さん、堀内さん、私の3人は、暖かい季節になってきたこともあって、よく外で会うようになった。


子どもを遊ばせようと外へでると、自然に集まってくる。

逆に、外で声がするとひらりが出たがるので、あえて合流することもあった。


それでよく3人で話すようになり、次第に仲良くなっていった。




堀内さんのパートがない日は、お昼を一緒に食べよう!と、ランチ会を催すこともあった。

子どもがまだ小さいので、お店に行くのではなく誰かのお家で。

月に1~2回、持ち回りでお互いのお家にお邪魔しあっていた。


時には保育園にいっている、堀内さんの息子さん(海里くん)が保育園をお休みしてランチ会に参加することもあった。


ランチの内容は、お互いに得意料理をふるまおう!というときもあれば、各自好きなものを持ち寄りの時もあった。

ランチ会の最後にはみんなで簡単なお菓子を作って楽しむこともあった。




★手に負えないほど泣く


女が3人集まれば、自ずと会話が始まるし話題もいろいろ。

ここ最近は、三津屋さんのお悩みが多かった。


2人めを妊娠して色々と大変なのに旦那さんは家にいないし、桃亜ちゃんの事は任されっぱなしだし、お義母さんは桃亜ちゃんのしつけのことで口をはさんでくるし、不満爆発なのだそうだ。


確かに大変そうだな、と思う。


私がそう思うのにはいくつか理由があった。




暖かく過ごしやすくなったこともあり、窓を開けている時間が増えた。

そうすると聞こえてきてしまうのだ…。


家がお隣だから。


あれは夕飯の支度をしているときだったか。


「ぎぃゃああああああーーーー!」


子どもの泣き声というか叫び声というか、どちらともつかない絶叫が聞こえてきた。


一瞬フリーズしたけど、すぐにこれは桃亜ちゃんだとわかった。

何事かと胸がドキドキして手が震え、持っていたお玉を落としてしまった。


これまでも、閉まっている窓越しに「あれ?どこからか泣き声が聞こえるな」と思う事はあった。

でもその時はかなりダイレクトに聞こえてきた。


なかなか声は止まない。




桃亜ちゃん癇癪をおこしてるのかな、泣き声のなかに「うぉおあぉおーー」と何かの訴えが入る。

ママさんが何か声をかけているみたい。

でも泣き止まない。


これは様子を伺いに行った方がいいのか、知らないふりをした方が良いのか・・・。




3分くらい経った頃。


「桃亜ーーーっ、いいかげんにしてっ!!!!」


ママさんの大声が聞こえた。

一瞬シンと静まったものの、また「ぎぃゃああああああーーーー!」


何が起こっているのか、どうしたらいいのか。


しばらく泣くとも叫ぶともいえない桃亜ちゃんの声が響き続けた。

単語でで表現するなら、半狂乱。


怒り狂っているようにも聞こえるし、泣いているようにも聞こえる。

感情がごちゃまぜになって全てぶちまけられている感じの声。




リビングで転がっていたひらりもさすがに気が付いて、「えっ?」て顔して私をみている。


そうしているうちに「バン!」「ドンッ!」という音が聞こえた。

ドアを閉めたとか、何かを落としたとか、そんな感じの。


しばらく泣き声は聞こえながらも、それは次第に小さくなっていった。




…どうやら落ち着いたらしい。




大絶叫で半狂乱の泣き声はすごい迫力で。

ここは新興住宅地だけあって、若い夫婦で子供が小さい世帯が多い。


我が家の近くにも1歳違いや2歳違いの子どもたちがいるはずだけど、さすがに桃亜ちゃんほどの泣き声を聞いたのは初めてだった。


窓が開いているのでわかるのだが、この泣き声は2日に1回くらいは聞こえてくる。

時間帯はまちまち。




ご近所に泣き声が聞こえていると察したのか、ランチ会で三津屋さんがこぼした。


「桃亜が癇癪をおこして、パニックしたみたいに泣くの。」と。


しつけの事などもお義母さんに色々言われるから、桃亜ちゃんママなりに気を付けて努力しているそうだ。

きっかけは色々なんだけど、桃亜ちゃんの要求が通らないと癇癪が始まる事が多いらしい。


確かに「桃亜ダメ。ダメだから。」という三津屋さんの声が聞こえてたかも。




他にも気になった出来事があった。


あれはひらりをベビーカーにのせて買い出しをした帰り。

まだ午前中だけどもうすぐお昼、そんな時間帯だった。


三津屋家のパパさんのお仕事は不定休だそうで、その日は平日だったけどお家にいらっしゃったんだと思う。

三津屋家の家に近づいたとき、また桃亜ちゃんが泣いていた。


大丈夫かなと思いながら三津屋家の前を通り過ぎようとした、その時。


「うるせぇ、だまれ!」


というパパさんの怒鳴り声が聞こえてしまった・・・。




ぎょっとした気持ちと、気まずい気持ち、両方が湧いた。

素早く静かに通り過ぎたつもりだけど、外に私がいたって分からなかったよね?




★共感できる部分


三津屋家パパさんとは、もちろんお会いした事がある。

優しくて気さくそうなパパさん、という印象だった。


だから本当にびっくりした。

もちろんここで垣間見たパパさんが本当の姿だ!とか、そんなこと思わない。


夫婦やって、親子やって、仕事やって、人間色々あるんだもの。


私だって感情的になって大声出すことあるし。


泣き声が凄くて親が怒鳴ったら「虐待してるんじゃない?」ってなるかもしれないけど、三津屋家は桃亜ちゃんをすごく大事にしてるのも知ってる。


お隣に住んでると、聞きたくないことや見たくないことでも、知ってしまうことがあるんだね。


お腹に2人めがいるのにパパは全然役に立たない!とか、桃亜の事をまかせっきりでひどい!とか、パパさんはお義母さんの肩ばかりもつ!とか。


私は三津屋さんの意見しか聞いてないし、すべてを知っているわけではないから鵜呑みにはしないけど、でも。

不満だし、つらい、っていうのは共感できる気がした。




★もう諦めている


三津屋さんのお腹の子が、どうやら男の子らしいってわかった時。

堀内さんは「ずっと保管していた海里のお古を着てくれない?上の子と下の子で性別が違うと大変でしょう?」と三津屋さんに言った。




実は、堀内さんはずっと2人めが欲しかったらしい。

でもパパさんは、息子と犬と本にしか興味がないと嘆いていた。


いくら待っても堀内家のパパさんはその気になってくれないそうで、2人めができた時のために持っていた海里くんの服を捨てようと思っていたそうだ。


「捨てるくらいだったら、三津屋さんのお腹の子に着て欲しいな。」

堀内さんは笑顔でそう言った。


…もう2人めは諦めたんだって。


思い返してみると、堀内家のパパさんは物静かな感じ。

寡黙な人って表現がしっくりくる。

でもすごく子煩悩だと思ってた。


だって、家の前の道路で海里くんと遊んでいる姿を見るもの。


「かいりー、ボールだぞ、とれよー。」


「うんー!」


パパさん子ども好きそうだけどな。




堀内さんによれば、パパさんは海里くんやワンちゃんには話しかけるけど、自分とは必要な会話しかしない、とのこと。

仕方がないので堀内さんのほうから話しかけると、はぁとか、ふんとか、そんな相槌しかかえってこないのだそうだ。

ほかの話題ならと思って、パパさんの話を聞こうと質問してみても反応は薄いらしい。


かといって仮面夫婦ってほど冷えているわけでもなくて。


パート先が接客業のせいもあって、堀内さんは常日頃から身だしなみとか気を使っている。

可愛らしくてさわやかなママさんだと私は思う。


でも、堀内さんは自分に自信をなくしてるんだって。


「会話がさ、続かないんだ~。私には興味ないみたい。だからもういいの。」


って聞いてる私も切ないよ。




★深く結びついてしまう


ご近所さんとして知り合って。

ママ友として関わるようになって。


共に子育てをする仲間として仲良くなった。




そして、夫に不満がある妻として更に深くつながった。




みんなそれぞれに抱えるものがあって、孤独だったんだと思う。

だから結びついてしまった。


でもこの時はまだ、ただ一緒にいるのが楽しいだけだった。


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